北斎殺人事件 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (1990年7月6日発売)
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感想 : 22
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 浮世絵三部作・「写楽殺人事件」「北斎殺人事件」「広重殺人事件」を総括して。

 三作とも個別に独立した内容だが、通読して包括される世界と、伝わる願いがある。
 浮世絵の蘊蓄と日本近世史の動向が絡み合い、生きた存在としての絵師を浮かび上がらせる。
 基本的な構成は、三作通じて同様。
 プロローグで当該作品の紹介、本編で絵師の実態についての仮説と調査の展開、死者からの手紙による告白、贋作判明後も残される仮説の有意性。
 文化や研究の興隆よりも、私利私欲の我執に取り憑かれた愚挙に揺れ動く現実社会。
 学者の曖昧な態度への批判、学問の怖さ、名声や商売に翻弄される研究者の哀しさ。
 「北斎」で語られる観光学の土産意識や、日本と海外の色彩感覚の差異、嗜好による調整、虹彩の違いにまで言及しての比較文化論も面白い。
 そして、「写楽」と「広重」の対比に見る、探偵視点の推移と、真相吐露側が入れ替わる、位置の相似性。
 三部作読了後は、「ゴッホ殺人事件」で示唆される塔馬双太郎の過去にも思いを馳せる。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説(ミステリ・サスペンス)
感想投稿日 : 2011年3月20日
読了日 : -
本棚登録日 : 2011年3月14日

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