蜻蛉始末 (文春文庫 き 21-3)

著者 :
  • 文藝春秋 (2004年8月3日発売)
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 明治期の政商・藤田傳三郎と、幼馴染みの“とんぼ”こと宇三郎。
 光と影の如く交錯する、男たちの人生を描いた歴史小説。
 幕末の動乱に翻弄され、傷心し、目まぐるしく変わりゆく時代を必死に生き抜く二人の、友情ともつかぬ絆と、別離。
 激動する奔流を泳ぎ渡りながら、少しずつ変貌しつつも、変わらぬ心底を持つ彼らの、深い繋がりが痛ましい。
 その関係を下地に、実在の人物も複数登場させ、世に言う「藤田組贋札事件」が解釈され、創作されている。
 事件前後の、宇三郎から傳三郎に対する呼称の変化に胸を突かれ、さらに終盤の回復に涙した。
 また、この時代の名立たる人物の、『陰勤め』となった男たちの生き様が、作品の側面を支える。
 そうした陰をも背負い、あるいは踏み台として生きる、著名人らの強かさと怖ろしさ。
 急激に発展し、故に歪んでしまった近代日本社会。
 作中にて、明治とは新しい時代の名前ではなく、ただの化け物だと称される。
 その怪物に食い荒らされる、人間たちの凄惨と悲哀を底流に、物語は静かに終息する。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説(歴史物・時代物)
感想投稿日 : 2015年4月15日
読了日 : -
本棚登録日 : 2015年4月15日

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