明治期の政商・藤田傳三郎と、幼馴染みの“とんぼ”こと宇三郎。
光と影の如く交錯する、男たちの人生を描いた歴史小説。
幕末の動乱に翻弄され、傷心し、目まぐるしく変わりゆく時代を必死に生き抜く二人の、友情ともつかぬ絆と、別離。
激動する奔流を泳ぎ渡りながら、少しずつ変貌しつつも、変わらぬ心底を持つ彼らの、深い繋がりが痛ましい。
その関係を下地に、実在の人物も複数登場させ、世に言う「藤田組贋札事件」が解釈され、創作されている。
事件前後の、宇三郎から傳三郎に対する呼称の変化に胸を突かれ、さらに終盤の回復に涙した。
また、この時代の名立たる人物の、『陰勤め』となった男たちの生き様が、作品の側面を支える。
そうした陰をも背負い、あるいは踏み台として生きる、著名人らの強かさと怖ろしさ。
急激に発展し、故に歪んでしまった近代日本社会。
作中にて、明治とは新しい時代の名前ではなく、ただの化け物だと称される。
その怪物に食い荒らされる、人間たちの凄惨と悲哀を底流に、物語は静かに終息する。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
小説(歴史物・時代物)
- 感想投稿日 : 2015年4月15日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2015年4月15日
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