ささめごと (プリンセスコミックス)

著者 :
  • 秋田書店 (1991年3月1日発売)
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本棚登録 : 64
感想 : 10
4

 河村作品の特徴の一つとして、悪女もしくは悪人が主体に据えられる頻度と、その魅力にある。
 女性側の秀作は、「見果てぬ夢」の日野富子。
 幼少期の無垢さを自ら葬り棄て、身内すら謀り、邪魔者を排除する反面、他者の清廉さが毒素となる我が身を密かに泣く矛盾を示す。
 姉分である今参りの局への慕情と厭わしさは、両立しながらも彼女の心を燻し続けた。
 悪女の奥深さと哀しみを体現する作品は、一読の価値あり。
 (作者自身は、この手の人物を描くのは苦手らしいのがまた面白い。)

 男性版の筆頭は、「雨の糸」「火炎」の足利直義。
 類稀な美貌の仮面の下で、罪悪と汚名を被りつつ、彼は、兄・尊氏を権力の座へと押し上げる。
 時代背景も難解なこの頃、互いの関係が如何なるものであったか、詳細は解からない。
 ただ、史料が語る兄弟の愛情と葛藤が、余韻をもって胸に残る。

 兄弟の相克としては他に、源頼朝と義経の「霧雨有情」。
 肉親の情に飢えた無垢な少年と、素朴で向こうっ気の強い娘・静との幼い恋を横糸に、擦れ違う兄弟愛の哀愁が縦糸に紡がれる。
 巷の判官贔屓に比して悪役に回され易い頼朝なれど、二人の決裂は、兄の妬心などではなく、互いの認識の不一致による必然の事態だった。
 永井路子「つわものの賦」に詳しいが、武士社会の統制の厳しさは、東国の組織性の根幹を成すもの。
 頼朝が東の『くに』の総帥として恩賞権を掌握し、鎌倉の独立を朝廷に認めさせられるかの分岐点にあれば、義経の叙位任官は武士団の結束を根底から揺るがし兼ねない。
 義経の最大の悲劇は、東国で育つことが出来なかったが故に、この鉄の掟を心身に叩き込めなかった不運にもあるのだろう。
 東国の旗印たる源氏一族の、養育の岐路が招いた彼らの結末は、日本の革命史上においても象徴的。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 漫画
感想投稿日 : 2011年4月3日
読了日 : -
本棚登録日 : 2011年4月3日

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