戦後史の解放I 歴史認識とは何か: 日露戦争からアジア太平洋戦争まで (新潮選書)

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  • 新潮社 (2015年7月24日発売)
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戦後史を20世紀の全体像の中に位置付け直し、再構築を試みた意欲作。「世界史」と「日本史」を統合し、国際的な平和、国際的な秩序を構築しようとする潮流の破壊者として戦前期日本の行動を捉える。

日露戦争までは国際的な秩序の中に自らの行動を位置付け、それなりの国際的な信義を得ていた日本が第1次大戦以後の国際秩序構築の動きをなぜ見誤り、孤立していったのか。

例えば、第1次大戦後の国際思潮の転換を牧野伸顕はしっかりと認識していたが政府の中では少数派であり、伊東巳代治のような旧来の「帝国主義」的な思想から脱却できなかった。ベルサイユ会議に同道した若き近衛文麿も「英米本位の平和主義を排す」としたことからもわかるように、国際的協調主義を理解できなかった。

1930年代以降の日本の選択が逐一、国際情勢分析の甘さ、機会主義的な行動などによって位置付けられるのに対して、大英帝国の明確な理念に基づいて取られる政治・外交の強かさが際立つ。そして、日米開戦によって日本は益々進むべき方向を見失っていくのに対して、逆にそれによって戦争の勝利を確信したチャーチルの大局観!!

著者は最後にこう述べる。「戦前の日本が、軍国主義という名前の孤立主義に陥ったとすれば、戦後の日本はむしろ平和主義という名前の孤立主義に陥っているというべきではないか。たとえば、平和主義と戦争放棄の理念を、1928年の不戦条約や、1945年の国連憲章二条四項を参照することなく、あたかも憲法九条のみに存在する日本固有の精神であるかのように錯覚し、ノーベル平和賞を要求することは、本書で見てきたような日本の歴史に少しでも思いをいたすならば、美しいふるまいとは言えないだろう。また、自国以外の安全保障にまったく関心を示さない利己的な姿勢は、下手をすれば国際主義の精神の否定と見られる恐れもある。」(273-4ページ)

戦後70年の今、必読の一書であろう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 歴史学
感想投稿日 : 2015年8月5日
読了日 : 2015年8月5日
本棚登録日 : 2015年8月4日

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