すべての教育は「洗脳」である 21世紀の脱・学校論 (光文社新書)

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  • 光文社 (2017年3月16日発売)
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 元ライブドアCEOで実業家の堀江貴文氏による、現代における学校の不要性、ネット社会での自分らしく新しい生き方論を綴った新書。本来学校とは国家に従順な国民の養成機関であり、現代の学校でも結局は従順な生徒、会社の言うとおりに動く人材を育てている。しかしインターネットの普及で「国家」という幻想が急速に力を失い「幸せの正解」がなくなった現代では、自分で思考し行動することことが幸せになる唯一の手段である。そのためには「もう学校はいらない」。教育の隠された根幹を曝し、これからの超情報化・AI化をフル活用した「遊ぶ」「働く」「学ぶ」三位一体型の新しいライフスタイルを、自己の超行動派の生き方を裏付けとして提唱する。

 ホリエモンの著書を読んだのは初めて。あまりいいイメージを持っていなかったが、本書を読んで印象が変わった。彼の行動や発言は批判の的となってしまうが、それらの根底には一貫した主義・信条がありそれをここまで生き方そのものとして具現化できている人を私は知らない。イノベーションを起こして財を成す実業家は以前からいたが、ネット普及後、特にスマートフォン普及後はそのイノベーションの形が大きく変わった。汗の匂いも涙の跡も見えない成功に対し、世間の目は冷たい。しかしそれがこれからの社会の特徴であり、決して怠けでも希薄でも、ましてや悪などではない。
 私は一公立校教員として学校教育に違和感を抱き続けてきたが、その違和の正体を著者が明快に示してくれた。それは「社会で生きる力を養う」と掲げる学校教育が、現代社会で活きる学習を提供できていないということだ。現場の教師に聞いてみると良い。自分の授業の学習内容がどのように社会で活かせるのか、明確に筋を通して説明できる教師がどれだけ少ないことか。学習指導要領を背骨とすれば良いというのが行政の考え、そしてそれを全教員に守らせる、まさしく「言うとおりに動く教員」を国は作ろうとしているのだ。『すべての教育は「洗脳」である』という書名は、考えれば考えるほど的を射すぎていると感じてしまう。
 しかし教師の矜持として、「学校はいらない」という結論に抵抗しないわけにはいかない。そのためには学校教育が本当の意味で意義あるもの、つまり「現実社会で生きる学習」を提供しなければならないだろう。だが敵は身内にありで、ネット普及以前の学校現場の杵柄を振りかざす教員が上層部に多くいる現状ではそう簡単には変わらない。まずは自分一人からの地道な変革の積み重ねか。その変化の速さから現代社会はよく激流に例えられるが、我々教員は残念ながらその激流へ身を投じることができない。できるのは情報収集ぐらい。「激流の中で自己の幸せを見つけ捕まえる力」を養う教育が実現できなければ、本当に学校はもういらなくなってしまう。危機感をありがとう、ホリエモン。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 新書
感想投稿日 : 2017年7月18日
読了日 : 2017年7月8日
本棚登録日 : 2017年7月8日

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