シェア <共有>からビジネスを生みだす新戦略

  • NHK出版 (2010年12月16日発売)
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昨年末に発売されて話題になった「フリー 〈無料〉からお金を生みだす新戦略」の続編に位置付けられるような一冊。米国のネット上での動きを「シェアリングエコノミー:共有型経済」という観点から見つめなおし、20世紀が育んだ消費文化へのカウンタ―としての方向性を提示したものである。まだ日本国内で活発に見られるような現象ではないし、本書で紹介されている事例も海外のものなので、なかなか馴染みにくい側面もあるのだが、この変化を日本に昔から根付いている”お裾分け文化”の進化系と捉えると、分かりやすいのではないかと思った。

◆本書で紹介されている”お裾分け”の進化系
1.”お裾分け”が、お仕着せに終わる可能性が少なくなってきている
「つまらないものですが」と言われていただいたものが、本当につまらないというケース、「お口に合いますかどうか」と言われて出していただいたものが、本当に口に合わないというケースは、誰しも経験があるのではないだろうか。このような不幸なケースは誰が悪いわけでもなく、こちらのニーズやウォンツが顕在化されていない仕組み自体に要因があることが多い。ただし、昨今のネット上で見られる変化のように、情報発信がどんどん簡易化されていくことにより、このような不幸なマッチングは確実に減少していく。考えてみれば、Facebookの「Like!(いいね!)」と「Share(シェア)」という二つのボタンは、実によくできていると思う。一見同じような振る舞いをする、この二つのボタンは、似て非なるものである。「Like!」は、的確な「Share」を呼び込むべく”自分のために行うもの”、「Share」は友だちの顕在化されたニーズを満たすべく、”他人のために行うもの”ということなのだろう。

2.お裾分けの相手が、ご近所さんには限らなくなってきている
これまでのお裾分けとは、地縁・血縁、リアルな人間関係等をベースに行われてきた。この根底にあるのは信頼関係というものである。しかし、顔の見えるソーシャルメディアが台頭することによって、信頼できるクラスタ―は、流動化、拡大化することが可能になった。これは同時に、お裾分けの対象が、広がっていくことも意味している。一番大きな変化は、システム化されることで、お裾分けの片割れがクラウドであるなど、一対一には限らなくなってきているということであろう。これは貧富の格差解消など、大きな社会問題を解決しうる可能性もあることではないかと思う。

3.お裾分けする内容が、モノからサービスへと範囲が拡大している
1、2の変化によって、お裾分けを効率的、システム的に行うことが可能になれば、お裾分けする内容はモノには限らないという変化を引き起こす。本来は分割できなかったようなものでも、多くのニーズが可視化され、所有から利用へと目的を変えることで、シェアが可能になる。車、バイク、ファッション、玩具、映画、ゲームといったモノですらマイクロ化されていく、新しい動きがおこりつつあるということなのだ。

こうして考えると、この古くて新しい”シェア”という文化が、お裾分け文化の発達している日本で本格的に根付くのも、そう遠くはないことのように思える。このような動きが加速し、世の中全体が効率的に再編成されると、経済全体が緊縮してしまうような懸念も感じるが、またそこに新しいビジネスが生まれていく可能性も大きい。そして、一番大切なことは、この<シェア>という新しい動きが、貨幣経済の全盛時には見られなかった”新しい価値観”をシェアしてくれるかもしれないということなのだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: Web
感想投稿日 : 2010年12月19日
読了日 : 2010年12月19日
本棚登録日 : 2010年12月17日

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