ピスタチオ

著者 :
  • 筑摩書房 (2010年10月1日発売)
3.52
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本棚登録 : 1261
感想 : 224
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(2010.11.02読了)(2010.10.28借入)
梨木さんは、亡くなった人の霊、動物や植物の霊を扱った作品を割と書いているように思います。今まで読んだ中で、以下の作品はそのような物語です。
「りかさん」梨木香歩著、新潮文庫、2003.07.01
「家守綺譚」梨木香歩著、新潮社、2004.01.30
「沼地のある森を抜けて」梨木香歩著、新潮社、2005.08.30
「f植物園の巣穴」梨木香歩著、朝日新聞出版、2009.05.30
今度の作品は、アフリカの呪術師に関するものですので、体調が悪いのは、その人の身体に何かがとりついているとか、誰かの呪いによるもの高いう考えに基づいて治療するという考えですので、今回も同じようなテーマということになります。

今回の主人公は、物書きの女性です。名前は、山本翠。もうすぐ40歳。ペンネームは、棚。イギリスの画家、ターナーから思いついたということです。名字と名前という形にはなっていなくて、単にたな(棚)です。ある時期以降のターナーの絵には、緑が使われていないのだそうですが、そうだったですかね。ターナーの作品をたくさん集めた展覧会があったら覚えていて、確認することにしましょう。
山本翠さんは、独身ですが、彼氏はいるので、都合のいい時に会って一緒に過ごしたりしています。結婚しないで、お互いにあまり拘束せずに暮らすということがこれからどんどん増えて行くのでしょうか。子供がいらない、生命の連鎖を断ち切る、ということであれば、それでもいいのでしょう。
山本さんは、犬(名前は、マース)を飼って、11年経つのですが、最近頻尿のようで、ときどき粗相をしてしまったりします。医者に診てもらったら、膀胱に腫瘍ができていることがわかったので、手術で取り除いてもらいました。少し調子を取り戻しています。
山本さんに、アフリカのウガンダへの取材旅行の話が舞い込みます。丁度、アフリカの呪術師の話を取材しつつ、アフリカの民話も集めていた知り合い(片山海里)が死亡し、現地のガイドも死亡した、ということがあって、彼らに何があったのかついでに調べてみたいと思っていたところだったので、引き受けることに、出かけて行きます。
亡くなったガイドの弟が、ウガンダでの案内を引き受けてくれて、取材を始めます。
依頼されたウガンダ観光の取材を進めながら、亡くなった知り合いの会っていた呪術師にもたどり着きます。山本さんの知り合いは、その呪術師のもとで、呪術師の修業をしていたことがわかります。しかもその知り合いは、呪術師としての最初の仕事で、人探しをしていたのですが、日本からやってくる女性が、行方不明の女性の亡くなった場所を教えてくれると言い残していたのです。
山本さんがその人です。ウガンダでは、反政府ゲリラが、幼い子供を誘拐し、兵士に育て上げるということが行われており、反政府ゲリラが、月の山(ルウェンゾリ)の向こうへ逃亡したという情報をもとに、ルウェンゾリ観光の取材も兼ねて、言ってみたら、霊感のように行方不明の女性が埋められている場所がわかりました。
ピスタチオの樹の下だったのです。
呪術についてのそれなりの理屈は書いてあるので、興味ある方は、本を読んでご確認ください。このあたりに興味を持てるかどうかで、この本の評価が決まってきそうです。
物語の最後に、「ピスタチオ―死者の眠りのために」という物語が挿入されています。一読では、内容が読み取れませんでした。この辺も・・・。

●雨季と乾季(93頁)
ウガンダの雨季と乾季のことを調べてもらった。現地の関係者によると、最近はいつからいつまでが雨季というような明確なことは誰にも言えなくなっているという。長期的な見通しの立たない、旱魃か洪水。雨季と乾季というシーズンそのものが消えつつある、と。いわゆるラニーニャ現象の影響らしい。
●オーダーメイドの物語(94頁)
学生時代から、棚は文章を書くことが好きだった。牧畜でチーズやバターを作って市場で売り、その金でその日の生活に必要なあれこれを買って生活していくように、自分も一つの作品を売って、その金で質素な生活をする、というのが棚の夢だった。石屋が墓石を作るように、誰か、その人のためだけの物語を、心をこめて作る。
(この本の最後の「ピスタチオ」がこのことらしい。)
●ジンナジュ(107頁)
ジンナジュは、中東からアフリカ全般に広がる、精霊・ジンのバリエーションの一つらしい。(アラビアン・ナイトにはいっぱい出てくる。)
●物語が必要(237頁)
患者と、患者のジンナジュが、本当に欲しがっているのは、ストーリーなんだ。特に人の恐ろしがる病の場合は、なぜ、自分がその病気になったのか、納得できる物語が欲しい。死者には、それを抱いて眠るための物語が本当に必要なんだ。

☆梨木香歩さんの本(既読)
「りかさん」梨木香歩著、新潮文庫、2003.07.01
「家守綺譚」梨木香歩著、新潮社、2004.01.30
「村田エフェンディ滞土録」梨木香歩著、角川書店、2004.04.30
「沼地のある森を抜けて」梨木香歩著、新潮社、2005.08.30
「水辺にて」梨木香歩著、筑摩書房、2006.11.20
「f植物園の巣穴」梨木香歩著、朝日新聞出版、2009.05.30
「『秘密の花園』ノート」梨木香歩著、岩波ブックレット、2010.01.08
「渡りの足跡」梨木香歩著、新潮社、2010.04.30
(2010年11月4日・記)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 梨木香歩:作家
感想投稿日 : 2010年11月4日
読了日 : 2010年11月2日
本棚登録日 : 2010年10月31日

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