新書803日本はなぜ脱原発できないのか (平凡社新書 803)

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  • 平凡社 (2016年2月15日発売)
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朝日新聞の記者による、“原発利権”に群がる「原子力村」に迫った本。

政・官・学・財、そして、マスメディアといった、原発を否応なしに推し進める構造がわかる。

政・官・財の複合体。
原発と電源交付金と「ハコモノ」。

電力会社の重役は電力事業に関する新たな職で、経済産業省の官僚は、電力事業の関連会社への天下り。

そして、大手メディアの重役も同じ。
「電力業界への関連団体への再就職も珍しくない。 」と。

第6章では、電力会社がいかに大手新聞社・メディアを(原発推進に)取り込んでいったかを追及している。
本書に書かれていることは、「ほんの一部」なのだろうと思わざるを得ない。


原発を誘致し、その変わり電力会社が「ハコモノ」を作る例もある。本書では、たとえば、九州電力が関係する「九州国際粒子線がん治療センター」がある。
その建設費、約40億円である。


2014年に行われた「エネルギー基本計画」に関するパブリックコメント。
本来行うべき経産省が行わず(怠慢としかいいようがない)、18,711件にも及ぶパブコメ意見を記者一人で、賛成・反対などの分類を行う。頭が下がるばかりである。

その「エネルギー基本計画」に関するパブリックコメントの調査の結果、脱原発94.4%、原発維持・推進1.1%、となった。
経済産業省が公表しなかった(したくなかった)こともよくわかる。
筆者が述べるように、「パブコメ」は、「強い思いを持つ人が出す傾向がある」とし、民意を伝える手段としては万能ではない」と思うが、この「民意」の意味と経産省の態度に怒りを覚える。

本書でも触れられているが、「核燃料サイクル」への電力会社、経産省の執念はいったいどこからくるのか。

「電力安定供給推進議員連盟」なる議員連盟もあり、もちろん電力会社と密接な関係にある。

東電の経営陣は、原発事故について、謝罪を口にするものの、その下の根もかわかぬうちに、原発事故直後の2ヶ月後には、「原発維持」に向けた活動が経産省の中で進んでいたこともわかる。。



また、使用済み核燃料の問題も。
「包括的燃料サイクル」。
原発の導入国に、ウラン燃料の調達から使用済み核燃料の引き取りまでセットで提供されるもの。
“ウラン燃料も後始末も”
「自分が使用して出てきたゴミ」を他国に押しつけようとする、政府・電力会社のやり方にも憤りを覚える。





繰り返す。


原発を中心に据えた「利益共同体」の、政・官・財・学、そして、メディア。持ちつ持たれつの関係。
そららを丁寧に、追及している良書だと思う。

朝日新聞紙面やウェブ上の朝日新聞の記事をまとめたもので、既知なものが多いが、原発事故から5年以上経った今、もう一度、原発利権を考えさせる一冊だと考える。

おすすめです。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2016年4月6日
読了日 : 2016年4月5日
本棚登録日 : 2016年3月29日

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