みずうみ 改版 (新潮文庫 シ 4-1)

  • 新潮社 (1967年5月1日発売)
3.50
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感想 : 11

先日読んだシュトルム「みずうみ」の新潮文庫版。全体的にこちらの訳の方が好み。
収録作は「みずうみ」「ヴェローニカ」「大学時代」。みずうみは既に読んでいたので、中で強い印象が残ったのは「大学時代」。
現代日本に生きる身にとって、階級社会を想像するのは難しい。勿論現実問題として貧富の格差はあるし、肩書き等による目に見えない「身分」は存在している。でも社会のひとつの仕組みとして明確に定められ、機能していた時代の空気を本当の意味で理解できているとは思えない。
だから、フィリップに思いを寄せられても応えることのできないローレの気持ちは、私には本当の意味では分かってないんだろう。それでも、想像することはできる。
貴族の子息達が是非にと誘ってくれば、それは誇らしい気持ちになっただろう。
普段仕立ててばかりのドレスを着て舞踏会に出るというのは、思春期の少女にとってはとても嬉しいことだったんだろう。
でも結局、彼女は身分が違う。
フィリップと一時期想いあったとしても、その先には破局しかない。
語り手であるフィリップは割と暢気に胸をときめかせているように見えたが、そういう点でローレの方が冷静だったんだろうなあ。
フィリップは途中から彼女の恋の相手ではなく彼女の運命の傍観者となり、語り手の立場に徹することになる。
故郷を離れ、淡い恋心も淡いまま彼の中で進展を見せなくなった後も、幾度か思いがけない場所で再会をすることになる。
彼女のたどり着く結末は最初から分かっていたが、それでもとても痛々しかった。
誰も悪くないのになあ。とても切ない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 海外作品
感想投稿日 : 2011年12月20日
読了日 : 2011年11月2日
本棚登録日 : 2011年11月1日

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