ニッポンが変わる、女が変える

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  • 中央公論新社 (2013年10月9日発売)
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感想 : 13
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このタイトルは何とかならなかったのだろうか。ちょっと手に取る気になりにくい。よく見ると、上野先生の対談相手がとてもユニークなので、読み始めてみたら非常に濃い内容で、大きく心を揺さぶられた。

「3.11」の後、ニッポンは変わらなきゃ、変わるはずだ、それを担うのは女性だ、という強い意気込みで対談の連載は始まったそうだ。そして二年…。今年の夏に書かれた「あとがき」には、「本書を世に送り出すのに、もっと前向きの明るい『あとがき』を書ける状況にないことが哀しい」とある。まったく日本はどこに向かっているのか。そういう思いをタイトルにも反映してほしかったと思う。

しかしまあ、この顔ぶれはすごい。上野さんが「こころから尊敬できる女性ばかり」だそうだが、馴れ合いの雰囲気がカケラもなく、緊張感に満ちている。疑問に思うこと、異議があることを上野さんは容赦なく突きつけていく。それに対してどの方も、一歩も引かず自分の考えを述べていく。こういう実のある対談は珍しいと思う。

田中眞紀子さんと対談しようなどと考える論客が他にいるだろうか。ここでの田中さんの発言を読むと、メディアが彼女をいかに露骨にイロモノ扱いしているかということがよくわかる。もちろん、上野さんとはまったく立ち位置が違うわけだけれど、それだけに対談内容は刺激的だ。

辛淑玉さんとの対談は、まさに猛者二人のがっぷり四つ。非常に読み応えがあった。以下、印象に残ったところを引用しておく。

高村薫「地震で死んだ人と死んでいない人の不幸を受け入れる唯一の方法として、仏教の“縁起”という考え方を発見した。私はその時から、生まれて初めて生きていることを肯定的にとらえることができるようになったのです」
上野「私は社会学者であることを選んだとき、一つ自分に課したことがあります。祈りと超越を禁じたのです」
高村「私が発見したのは、信仰という超越ではなく、あくまで仏教の思想原理です。」
上野「というか、宗教を禁じ手にしたのです」
高村「確かに.宗教を持ち出したらズルでしょうというところはありますが」
上野「ご自分で言ってくださってありがとう(笑)」

上野「石原や橋下がウケるのは中央政府や公務員という敵を作り、徹底的に叩いているから。既得権益に戦いを挑んでいるという幻想が大きいのでしょう」
高村「大阪府の職員を叩いて政治ができるならこんな簡単なことはない」
上野「そんな簡単なことに引っかかる有権者がいるわけです」
高村「私の周囲には一人もいません」
上野「私の周囲にだっていません。アメリカにいた時も、私の周りにブッシュに投票する人は一人もいなかった」
高村「アメリカのような階層分化が、ついに日本でもできたのでしょうか」

永井愛「橋下さんのように罰則でもって人を支配したがる人を、皆、なぜあんなに尊敬するのか。自分の首を絞めることになる結果が見えているのに!」

中西準子「今、私たちが直面している問題は、『リスクはあるが、選びましょう』ということです。私から言わせれば、これは『人生』。われわれの生きる道であり、生きていかなければならない道です。なぜ、それを選ぶのか。それは選ばないともっと困ったことが起きるからです。リスクを選んで生きよう、なのです」
      (中略) 
上野「納得のいくお答えですね。リスクはなくならない」
中西「なくならない」
上野「だから相対的なリスクを選べ、ということですね。しかし、一つ間違えれば、中西さんは政府の回し者、と見られるかも」
中西「いつもそう言われてます(笑)」
上野「ずっと行政と闘ってきた闘士だったのに(笑)。情報と選択肢を提供するのは専門家と政治の責任で、あとは自分の運命を自分で選ぶという自己決定。つまり、情報公開と民主主義が、中西さんのお考えです。私も同感です」

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 対談・インタビュー
感想投稿日 : 2013年12月15日
読了日 : 2013年12月15日
本棚登録日 : 2013年12月15日

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