冷血 (新潮文庫)

  • 新潮社 (2006年6月28日発売)
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本棚登録 : 3075
感想 : 268
5

ツイキャスの朗読で読破。30分×40枠。

カポーティは、ともすれば冗長になりがちの単なる事実やエピソードの羅列を、ぴりりと効いた皮肉や観察眼で、いともたやすく読ませる物語にしたててしまう。エピソードの挿入のタイミングや引き込み方にカポーティの編集能力や文学的センスがかいま見える。特に355ページからの、KBI捜査官デューイの見る白昼夢に読者を引き込んでしまう文章力、はカポーティならではのものだろう。
脇を彩る登場人物もなんとも多彩で、何気ない描写から彼らの人生観や人間性が見えるのがひどく不思議な感覚だ。たった何十行、何ページかの言葉の羅列で、ある一人の人間の人生に巻き込んで彼らのすべてを伝えてくれる。

犯人ディックとペリー、特にペリーの描写は(言うまでもないことだが)圧巻というか、バランスが絶妙だ。ペリーの憎むべき面と、愛すべき面が奇妙に織り交ぜられ、読者は(少なくとも私は)この殺人犯を罰するべきなのか救うべきなのか混乱しつつ、処刑に至るまでの道筋を追うことになった。
カポーティ自身の人間性や人生を予備知識として頭にいれることで、何故この著者が、(おそらくはペリーを主人公とした)こんなにも長い小説を書くに至ったかが理解できるのではないだろうか。嘘つきで、孤独で、寡黙で、頭がよく、ロマンチストな青年ペリー。カポーティは中盤でこの小説を書く筆が止まり長く苦しんだという。その気持がわかるような気がする。私はペリーに死んで欲しいのか死んでほしくないのか全く混乱してしまった。彼の人間性の煌めく部分を考慮したところで、彼の犯した罪はあまりにも重い。それは彼自身の過失によるものかよらないものか、それは意見が別れるところではあると思うが、カポーティはペリーの託つイノセンスに肩入れしすぎてしまったのだろう。そういうカポーティの不器用さや孤独さが私は好きだ。

ペリーの最期のあっけなさはどこかダンサー・イン・ザ・ダークのラストに通じるところがあった。著者がそこで物語を終わらせず、デューイとスーザンの邂逅にと導いたのは何故だろうか。訳者佐々木雅子氏のあとがきによれば「家族の愛」を示唆したものだということらしかった。けれど、自身も親の愛に恵まれなかったカポーティにそこまで素直に家族の愛を礼賛できるものかどうか私には少々疑問符が残る、ところではある。ラストシーンの解釈は見る者に委ねられるところだろう。しかしこのシーンの光あふれる光景や忘れられない死者への悼みは、「冷血」の作品の読後感を「救いあるもの」に仕立てる役割を果たしているということは確かだと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 朗読
感想投稿日 : 2016年4月17日
読了日 : 2016年4月13日
本棚登録日 : 2016年4月13日

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