言論抑圧 - 矢内原事件の構図 (中公新書 2284)

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  • 中央公論新社 (2014年9月24日発売)
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日中戦争が勃発した戦中期。
中央公論に掲載した戦争批判の論文が原因で東京帝国大学経済学部教授の職を辞した矢内原忠雄。
戦前戦中期の言論弾圧事件の文脈で語られるいわゆる矢内原事件の構図を、当時の大学内部の教授たちの抗争や出版界の状況、政治の圧力といった複雑な力学まで目配せしつつマイクロヒストリーの手法で読み解いた内容。



矢内原事件から浮び上がる言論抑圧の恐怖は弾圧そのものにあるのでなく、「言論が抑圧されている」という主張さえできないこと。沈黙させられている人は「沈黙させられている」ということについても言うことができない。これが多くの人に言論抑圧が認知されにくい原因でもあるというのが、怖い。


しかし、東大経済学部教授たちの派閥抗争の件は正直読んでて飽きてしまった。それ自体知ったところでなんのためにもならない(知る必要もない)学者たちの勢力図と内部抗争のお話。学問の自由、大学の自治を看板に象牙の塔内でなにやってんだか・・、としか思えず、学者たちの嫌な雰囲気しか伝わってこなかった。
ただ、この箇所を読まないと大学の自治制度の脆弱さ(学長のリーダーシップ如何による)が見えてこないし、外からの政治的圧力に対して大学として矢内原教授を守れなかった遠因にもなるのでもどかしい。言論抑圧をめぐる矢内原教授の辞職問題は、結局は’愛国心‘に関する深刻な対立なのだろう。愛国心は今日的テーマでもあるから、もっと考察が欲しかったが新書だから仕方ないか。。

読書状況:未設定 公開設定:公開
カテゴリ: 歴史
感想投稿日 : 2014年12月19日
本棚登録日 : 2014年12月18日

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