希望と勇気、この一つのもの: 私のたどった戦後 (岩波ブックレット NO. 725)

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  • 岩波書店 (2008年6月5日発売)
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政治家も裁判官も、なんと無情で、貧困な想像力しか持ち合わせていないのか。自然条件のきわめてきびしい異国で、孤立させられた女子どもだけの家族。子は親を捨て、親は子を手放した。あるいは、ともに野に果てた。帰るに帰れない歳月をやっと生き延びた人たちに、救済の手もさしのべない「国」を、わたしは信じたくない。

Yさんの棄民体験、自らの棄民体験、そして、2007年1月に出た「中国残留孤児訴訟」の東京地裁の判決(孤児側の全面敗訴)から、上記のように訴える著者。(Yさんの棄民体験、それは壮絶なものです。)
そんな国の姿は、福島後にも、見られるものではないか。

そんな国は無用だ。
「すべての政治改革、政治決定は、最末端の個人や家族の『運命』を狂わすことがある。改革を推進した人たちは、人生を落ちこぼれてゆく人間の痛みなど知るまい」
それは、今、日本で再び繰り返されている。

でも、澤地さんは希望を捨ててはいない。
「市民が動いたからと言って、一夜で自体が変わるわけではない」(小田実)けれども、市民の細かいネットワークが生まれ、それがつながってゆきつつある。この流れを妨害し、打ちつぶすことなどできない、という実感。市民を主人公とする歴史が脈打ち始めた。それがわたしに希望の火種ねと勇気をもたらす。
(中略)
無名の市民レベルの人たちの意志と行動を支えているのは、日本の政治の現実にほかならない。アメリカ追随のまま、「棄民」をやる政治のツケが我が身にも迫ってきたという実感。そしてあまりにも露骨な「戦争容認」の風潮。
(中略)
動くこと、人々とふれあうことで希望をつかめた。結局、わたし自身の選択が、わたしに答をもたらしている。問いも答もわが身のうちにあった。
 希望と勇気は、ふたつにわかちがたいものとして、あなたにも、私にもある。たたかう力をもつために、夢を、理想を描き、そこに希望の種子をまき、たがいに水を注いでゆきたい」

政治を見れば失望しかないけれども、希望を捨てないで、持ち続けたい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ノンフィクション・手記
感想投稿日 : 2012年10月5日
読了日 : 2012年10月5日
本棚登録日 : 2012年10月5日

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