失敗の本質

  • ダイヤモンド社 (1984年5月31日発売)
4.19
  • (83)
  • (53)
  • (30)
  • (8)
  • (1)
本棚登録 : 1303
感想 : 75

 副題にある通り、日本軍の敗北を組織論から考察したもの。歴史家ではなく主に防衛大学の研究者らによって書かれた本であるため、政治的・道義的な主義主張には一切触れず、あくまでも軍隊や組織が勝つために必要だったものを冷徹に分析している。

 第一章では、大東亜戦争において日本軍が大敗を喫した六つの代表的な戦場─ノモンハン、ミッドウェー、ガダルカナル、インパール、レイテ、沖縄─の各々について、どのように推移しなぜ負けたのかを個別に分析。第二章では包括的に、これらの敗北の背景にある日本軍の本質的な欠点(あるいは弱点)を探る。そして第三章では明治時代の官僚機構から現代の民間企業まで、日本的組織全体に通じる課題に言及していく。

 採り上げられた六つの戦闘のうちノモンハン以外はいずれも米軍を相手とするものだ。日本がアメリカに負けた理由としては、圧倒的な物量の差がまず挙げられることが多い。しかし個々の戦場について語る場合、その時その場に投入されていた戦力は必ずしも米軍の方が多かったわけではない。日本軍の方が多くの戦力を投入してもなお負けていることが指摘される。

 本書が分析する日本軍の失敗の本質は、物量的に劣勢だったことではない。もちろん物量は必要だが、それ以前に戦略の立て方や作戦目的の曖昧さ、合理性より情緒が優先される組織体質、コミュニケーションや情報収集の軽視、学歴主義から能力主義に転換できなかった人事制度など、もっとソフト面の問題だ。

 そしてこれは多かれ少なかれ現代の日本組織にも残っている問題点だと言える。下手なビジネス書よりビジネスに役立つのではなかろうか。

 なお、初版発行は今から30年近く前の1984年で、文体に若干の古臭さを感じなくもないが、それは時代より内容の特殊性によるものと思われる。軍事関係の独特な用語が頻出するため、Kindleの内蔵辞書が大活躍した。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2017年6月19日
読了日 : 2013年11月3日
本棚登録日 : 2017年6月19日

みんなの感想をみる

ツイートする