あの戦争と日本人

著者 :
  • 文藝春秋 (2013年7月10日発売)
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感想 : 16

 『日本のいちばん長い日』などの著書で知られ、昭和史の大御所とでも言うべき半藤一利が、幕末から太平洋戦争まで日本が経験した「戦争」とそれが日本社会に及ぼした影響、そして日本人の行動パターンについて語ったもの。口述筆記なので文体は話し言葉になっており、スラスラ読むことができた。

第一章 幕末史と日本人
第二章 日露戦争と日本人
第三章 日露戦争後と日本人
第四章 統帥権と日本人
第五章 八紘一宇と日本人
第六章 鬼畜米英と日本人
第七章 戦艦大和と日本人
第八章 特攻隊と日本人
第九章 原子爆弾と日本人
第十章 八月十五日と日本人
第十一章 昭和天皇と日本人
新聞と日本人──長い「あとがき」として

 目次を見ると分かるように、必ずしも「戦争」ごとに語られているわけではなく、むしろ戦争にまつわる特徴を捉えてテーマを組んでいる。特に昭和に入ってからは、戦争を物語る上でのキーワードが列挙されている。そのため内容は自由に時代を前後しているが、特にわかりにくいわけではない。

 後半、太平洋戦争を語る中で大きな柱となっているのは、幕末や明治に比べて昭和の政治家や軍人は小物だという主張だ。著者は昭和五年生まれで、幕末や明治と太平洋戦争では本人の経験や記憶という点で立場が異なるので多少差し引いてみる必要があるが、客観的な史実を並べるだけでもそれは明確に示されており、否定しがたいと感じる。

 幕末から明治にかけての日本の指導者は、ともすれば欧米列強によって植民地化されるかもしれないという切実な危機感と、日本の国力が相手よりはるかに劣っていることの自覚があった。だから外交も戦争も極めて現実的な判断をしていた。ところが彼らの努力の甲斐あって“大日本帝国”となった後、昭和の指導者は政治家も軍人も己をわきまえなくなり、夜郎自大な国になってしまったというものだ。要は、「三代目が店を潰す」のと同じだったのだろう。

 しかし本書でも時折触れられているように、それは決して昔の話ではなさそうだ。つまりまさに現在の日本もそうなりつつあると思われる。戦後の焼け野原から必死で国を立て直した世代は去り、ジャパン・アズ・ナンバーワンの記憶しか持たない世代が国を導き始めたら、再びおかしな方向に進んでしまうのではないか。まさかこの時代にそんな、と笑い飛ばせると思っていたことが、決して笑い事ではないのだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2017年6月26日
読了日 : 2016年7月22日
本棚登録日 : 2017年6月26日

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