久しぶりに小説を読んだ。ドリアン助川といえば“叫ぶ詩人の会”という認識しかなかったが、小説が日替りセール対象になって評価が高かったので読んでみた。
どら焼き屋を営む主人公とそこに現れたあん作りの上手な老婦人、それに店の客である女の子の交流を軸に、ハンセン病患者の辛く長い歴史が語られる。 読後に調べたら1年ほど前に永瀬正敏と樹木希林で映画化されていたようだ。
ハンセン病患者の隔離を定めた「らい予防法」が改正されたのは1996年で、今から20年前のことだ。しかしその後も、観光地の旅館が宿泊を拒否するなど残念な報道は何度か目にしている。法律が変わっただけで人の意識がすぐに変わるわけではない。この小説に登場する無理解な女性オーナーのような人も大勢いるのだろう。
人の意識と書いたが、具体的には偏見と恐怖であり、そのいずれも無知に基づくものだから教育や啓蒙で変えられるはずだ。しかし世の中を変えるには長い時間が必要であり、その間にも患者たちは人生を終えていく。
この小説はそんな社会に憤りをぶつけるのではなく、ただ静かに、それでいて力強く生きていく人の姿を描いている。それがあまりに切なく、涙を誘う。読み終えてから冷静に考えるとベタな展開だなとも思うのだが、読んでいる時はとてもそんな斜に構えた気持ちは出てこず、素直に泣いた。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2017年6月26日
- 読了日 : 2016年6月4日
- 本棚登録日 : 2017年6月26日
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