カムパネルラ (創元日本SF叢書)

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著者 : 山田正紀
O-bakeさん 小説   読み終わった 

タイトルから推測できるように、宮沢賢治「銀河鉄道の夜」に登場する人物(+風野又三郎)が活躍するSF小説。ある青年がタイムスリップした先は賢治が亡くなる前日の花巻で、しかも青年は「ジョバンニ」と呼ばれ、おまけにカムパネルラ殺しの嫌疑をかけられていた!

「銀河鉄道の夜」そのものがSF的な面を持っているといえなくもないが、あの寓話をどうやってガチのSFへ持って行ったのか、それは読んでみてのお楽しみ。

さらにすごいのは、「銀河鉄道の夜」が何度も改稿を重ねているという事実をもとに、「もしも第三稿までしか存在しないことにされている世界があったら」という仮定で物語世界が構築され、その世界の存在によって現代社会を露骨に批判していること。これはサーカスで言えば、綱渡りの最中に後方宙返りをして、成功させるようなものですよ。

もちろん作家としての賢治の精神性には十分リスペクトが払われているし、第三稿と第四稿(最終稿とされ実際に流布しているバージョン)の間に横たわる深い溝の理由についても、納得できる考察がある。納得できるどころか、その溝がこの物語を動かす原動力になっている。

宮沢賢治の作品は、人によって好き嫌いが分かれるし、理解できない人にとっては全くダメだし、はまる人はスコーンとはまる。自分の場合は、「やまなし」や「雨ニモマケズ」はOKでも「グスコーブドリの伝記」はNGで、「よだかの星」は若い頃は切ない話だなあ、くらいに思っていたのが今はちょっとねぇ……と感じる。何が気になるかって、自己犠牲の青臭さがどうしても鼻につく。大勢の人々を救うために(取るに足らない存在の)自分が犠牲になる。これは美しい話でだれもおおっぴらには文句のつけようがないのだけど、そこには自己陶酔というワナがあるし、権力がある意図を持って押しつけてくる危うさがある。押しつけられたら最後、自己犠牲なんて美談ですむわけがない。

この作品は謎解きやからくりが非常に面白いけれど、つきつめれば、警告の書以外の何者でもないな。

レビュー投稿日
2017年4月5日
読了日
2017年3月31日
本棚登録日
2017年3月31日
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