シンドローム (ボクラノSFシリーズ)

著者 :
  • 福音館書店 (2015年1月15日発売)
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本棚登録 : 247
感想 : 40

そんなにたくさん読んでいるわけではないが、これまで読んだ児童書・SF含めて一番意味不明な小説。書かれている内容は素晴らしくよくわかし、文字配置の美しさや繰り返しを多用することによって生まれる独特のリズム感は楽しめるが、読み終えた時に「これだけの紙面を費やして結局何が言いたかったんだろう」と考えだすと頭の中はヤブの中。

現代美術のジャンルのひとつに「ハイパーリアリズム」というのがある。写真を見ながら、その写真と瓜ふたつの絵画を制作する。出来上がった作品は写真よりもサイズが大きいが、遠目から見ると、本物の写真と区別がつかない。今の時代、リアルさならカメラに任せておけばよいものを、どうしてわざわざ人の手で写真を再現するのか、正直言って意味不明である。

これと同じことが本作で起きているような気がする。
思春期真っ盛りの高校生男子がの内面がこれでもかとリアルに描き出され(とくに恋に落ちた時の心の動き)、日常に非日常が侵入してくる様子も、過剰な自意識のフィルターを通しながらも、淡々と的確に描かれていく。

近くの山に謎の物体が降ってきて衝突し、数日後には周辺で大規模な陥没がおき、とうとう学校を含む市街地が土中に沈んでしまった上、土中には得体のしれない触手状の生物が潜み、人を襲ってくる。にもかかわらず、誰も「宇宙から正体不明の生物がやってきて地球を侵略云々」とは言い出せない。そこがかえってリアルっぽい。非常事態に対する人々の反応も、政府や役所の対応もまったく現実世界そのままの災害対応で、とりわけ校舎が土中に陥没してからの校内の描写が真に迫りすぎて異様に恐い。

主人公たちは、埋もれた校舎から無事に脱出し、自衛隊の救助ヘリで地上に連れ戻してもらう。しかし、触手の化物は完全に退治しきらないまま、陥没の原因も特定できないうちに、主人公一家は遠くの町へ避難することになり、そこで物語は終わる。事件は始まったばかりで、なにも終わらないうちに物語は閉じてしまう。主人公が想いを寄せている女の子とも進展があるようなないような中途半端な関係のままだ。

予想もしていなかった突然の災害、得体のしれない化物。いつ終わるとも知れない非日常。
もしも3.11という出来事の本質を抜き出し、あらためてSF小説のひな形に流し込んだなら、このような物語が生成される可能性はある。

と、無理に解釈しようとすると、こんなありきたりの答えしか出てこないのだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 児童文学
感想投稿日 : 2015年4月5日
読了日 : 2015年4月4日
本棚登録日 : 2015年4月4日

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