流通大変動 現場から見えてくる日本経済 (NHK出版新書)

著者 :
  • NHK出版 (2014年1月8日発売)
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セブンvsミスド
「コンビニに入って来た客が、必要な商品を探してレジを通るまでの平均時間は四分程度である」消費者から見たコンビニの最大の利点は時間消費の節約だと言うことだ。レジに客が並ぶと新しいレジをあけると言うのは他の業態の小売店ではなかなか無い、中国の便利店はちょっと違う様だが。これまで店舗網を拡大して市場を拡大して来たコンビニだがもはや限界で単一店舗の売り上げを落とさないと新規出店が出来ない様になって来ている場所も多い。フランチャイジーにはたまったものではないが同じ系列のコンビニでの競合も始まっている。そこでコンビニは狩猟型から農耕型ビジネスへの転換をはかることになる。POSデーターから客層を分析すれば同じ系列でも品揃えが変わっていく可能性がある、リピート客を大事にすることと、時間消費という点からファストフードはコンビニのライバルになる。伊藤氏は10年以上前のセブンの鈴木会長との対談でミールサービスを熱心に語っていたことが印象に残っているという。ファストフードもそうだが宅配に力を入れ出した原因は社会の高齢化に伴う行動様式の変化があるのではと。実際にコンビニを利用するボリュームゾーンは高齢者で、70才を増えると700m以上歩くのがいやという人が増える。ワンストップで買い物できるコンビニがさらに宅配に手を伸ばしファストフードからも消費者を奪い固定客化しようとしている。

郊外店の背広はなぜ安いのか
一例だが百貨店で売っている背広が58千円とすると生地が5600円、工賃が10400円で製造原価が16000円、これに対し郊外店では35千円で売りロットサイズを大きくして原価を12200円に抑えている。百貨店が23000(40%)、アパレルが19000(33%)のマージンを取るのに対し、郊外店は18000(51%)、メーカー4800(14%)と一見メーカーが利益率を落としている様だがこれもロットサイズが大きければメーカーも充分成り立つ。これを極端に規模を追いかけてやっているのがユニクロなどのSPAでユニクロは東レと組んで単純に安いというよりは独自のブランド価値を作り出している。今や旗艦店の立地は百貨店と変わらない。百貨店はアパレルやブランドに場所を貸し出す不動産業というのが実態に近い。先のコンビニとの対比で言えば百貨店の目指すのは時間を消費させる場所でしかないような。在庫は持たないショールームに特化しそのかわりセミオーダーメードのように高いけれど客の注文を何でも受け付けると。元々がご用聞きが利益の源泉なのだから。そしてお金を使わなくても楽しい場所を目指すのだろう。阪神百貨店のフードコートなんかが良い例だと思うし、宅配もしないそこでしか売っていないお菓子に並ぶ人も多い。百貨店に限らず例えば原宿はそこに行くこと自体が目的の観光地と化し海外からも人気が高い、そしておばあちゃんは巣鴨の地蔵通りへいく。シャッター商店街との違いはなんなのだろう。

専門店vsアマゾン
トイザらスに代表されるカテゴリーキラーの最大の競争相手はアマゾンなどのネット販売になるかも知れない。インターネットとロジが組み合わさり流通業自体に変革が起きている。専門店はサプライチェーンの中でチャネルリーダーの立場を獲得した。メーカーが育てたナショナルのお店に対し売り場の発言力の方が強くなったヤマダ電機という変化だが、今後は生産者が直接消費者と結びつきニッチな生産者を束ねるプラットホームとしてのアマゾンや楽天、そしてそれを支えるヤマトなどの物流会社という構図が進むのだろう。宅配の時間指定はもはや当たり前だが、例えば到着予想時刻を知らせるサービスなんか今の技術で出来るだろう。ちょっと外出してる間に配達があってもそれをスマホに飛ばしてもらえば即座に何分後に再配達を依頼ということも出来る様になる。

そうはとんやがおろさない
うまい商売を思いついても肝心の商品を問屋が売ってくれないというのがこのことわざの語源で、昔は問屋が流通の中心にいて商流(金の流れ)、物流(物の流れ)と情報の流れを全て押さえていた。例えば風邪薬の場合大正製薬のパブロンと武田薬品のベンザエースでは小売店のマージンが全く違う。小売店にお勧めの風邪薬を聞くとパブロンや佐藤製薬のストナなど直販メーカーの商品を進めるケースが多いというのはその方が小売店の手取りが増えるからだ。アメリカの医薬品問屋は病院に深く入り込み、在庫管理の悪さに眼をつけ管理サービスまで引き受けた。また危険な薬品の管理については指紋認証システムの容器を提案し、盲腸などのルーティン手術用にはキットをパッケージにして病棟ごとに届ける様にした。誰が何のために何を必要としているのかを踏み込んでとらえたマーケティングの良い成功例だ。決済サービスもロジもインフラとして整備されたので後は情報をどう扱うかがテーマなんだろう。アマゾンの場合もどこの店が信頼できるか、そして信頼できない店をどうやって排除するか。メーカー側からしても情報の発信がキーになる。宮尾酒造の〆張鶴は年間20億ほど売れていないが利益は9億も稼ぐらしい。問屋は通さずつきあいのある酒屋や飲食店にしか卸さない。ブームになった地酒や焼酎なども昔からのつきあいのあるところにしか卸さないという話はいくつもある。「そうはとんやにおろさない」

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 産業
感想投稿日 : 2014年12月14日
読了日 : 2014年12月12日
本棚登録日 : 2014年12月12日

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