大密室

著者 :
  • 新潮社 (1999年6月1日発売)
3.11
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本棚登録 : 83
感想 : 12

タイトルの示すとおり7人の作家による「密室」に関連したミステリを集めた短編集。

有栖川有栖「壺中庵殺人事件」・・・入り口の扉が天井についた地下室で吊るされた死体。窓が一つもなく自殺に思える状況だが、ただひとつの事実がその可能性を打ち消していた。死体の頭部には、あろうことか壺が被さっていたのである。    (※火村教授&作家アリスの短編)

恩田陸「ある映画の記憶」・・・小学生の頃に1度見ただけの映画の記憶。海の真ん中に取り残され、満ち潮の中消える母親―――深く刻まれたその映像が、叔父の葬式の後にまた押し寄せてきた。衝動に駆られて映画のストーリーを追ううちに、またも押し寄せてきたのは叔母が死んだ夏の記憶だった。

北森鴻「不帰屋」・・・民族学助教授・蓮丈那智の書き散らしたファイルを整理していると、2年前の事件についてのファイルを見つけてしまった。東北のある村で「女の家」についての調査中、雪に囲まれた離屋で女性が静かに「殺害」された、あの事件の・・・。

倉知淳「揃いすぎ」・・・「謎解き問題に挑戦してみませんか」 軽く語りだされたのは、4人の友人たちが麻雀に耽った日の夜。仏間からか細い声が聞こえた数分後に、麻雀会場の家主が仏間の隣の部屋で死んでいた――まるで亡き奥さんに呼ばれたかのようだったという実話であった。 (※猫丸先輩の短編)

貫井徳郎「ミハスの落日」・・・老富豪は、亡き幼馴染の息子を家に招待してまるで懺悔のように長い話を始めた。30数年前、久しぶりに会った幼馴染の彼女にひどい仕打ちを・・・暖かで美しい思い出の中に唯一あった暗い事実を暴き出してしまったことを。

法月綸太郎「使用中」・・・新しい作品の構想を語る推理小説家。それを聞く、やる気のあまりない担当編集。彼らは知らなかった。構想のヒントになった小説の密室状況に似通った状況が、自分たちに降りかかってしまうとは。

山口雅也「人形の館の館」・・・推理小説家となったヒューは、学生時代に1人の女性をめぐって喧嘩別れした友人・ニコラスの館に招かれた。集められたドールハウスの説明に夢中になった2人だったが、彼が招かれた理由はそれではなかった。実は、妻の殺人予告が届けられたというのだ。


密室・・・それは推理小説の読み手にとっても書き手にとってもなんとも甘美でありつつもにがく苦しい、美酒のような毒薬のような。そんな相反するものの象徴のような存在。
だからね。私が本のタイトル見ただけで手が伸びちゃっても、それはどうしようもナイコトなのよ!!
いや、ちゃんと中身も面白かったです。ただタイトルにはそれほどの引力があると主張したいだけで。
でもこの作品群、実は「密室の謎解き」を目的にしているのって1・・・2話程度なんじゃないでしょうかね。ほとんどの作品は、密室を扱った、あるいはアプローチに使っただけではないかと思います。おかげで全体的に硬くならず、推理モノのアンソロとしては読みやすくはなったのかも。・・・・詳しい人にはちょっと物足りないかもだけど、ね。
私が面白く読んだのは、まずは「不帰屋」。民俗学からのアプローチというのが今までに読んだことがなかったので新鮮でした。今度北森作品も読んでみようと思います。
それから次に「使用中」。法月作品読むのは実は久しぶりなのですがv 密室の状況を上手く利用して緊迫感が出ています。目から鱗。「雪隠詰め」の説明も生きてます。のりりん、がんばれー!

ちなみに各作品の後には、各作家による密室についてのエッセイ(書き下ろし)が掲載されてますよー。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: その他作家
感想投稿日 : 2012年6月9日
読了日 : 2005年7月10日
本棚登録日 : 2012年6月9日

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