迷いの晴れる時間術

  • ポプラ社 (2009年7月1日発売)
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感想 : 20
4

例によってタイトルが恥ずかしいので
多くの読者を失っていると思われるが
いわゆる自己啓発本ではなく、ちゃんとした心理学の本。
原題はTHE TIME PARADOX。
著者のフィリップ・ジンバルドは映画es[エス]の元になった
スタンフォード監獄実験を実施したことで有名。

確か1,2年前にTwitterのフォロワーさんに薦められて読んだ。

内容は人の時間に対する姿勢は生き方に大きく影響しているので、
時間への姿勢を変えれば、充実した生き方ができるというもの。

本書では時間に対する姿勢のことを時間志向という。
時間志向は過去志向、現在志向、未来志向の3つに分かれ、
さらに、各自2つのタイプがあるので、合計6タイプとなる。
以下がその6タイプ。
・過去肯定型
・過去否定型
・現在快楽型
・現在宿命論型
・未来型
・超越未来型

これらは、どれかひとつに決まるというものではなく、
いずれかが他と比べ強い傾向があるというものになっている。
これらを判断するチェックリストが本書には載っている。
ちなみに自分の傾向は過去否定型が一番強かった。

まず、過去型についてだが同じ過去型なのに正反対の特徴を持つ。

過去肯定型というのは、家族との関係が良好だと
自然になるものらしい。
一番幸せなタイプのためか説明がほどんどない。。。
過去を絶対的に肯定するという意味でニーチェを
引用しているくらい。

逆に過去否定型というのは、心理学としては扱いやすいらしく、
かなりページを割いている。

心理学の二つの学派、精神分析と行動主義が過去を重要視している
という側面もあり、過去の記憶は正しいか?というところから
話は始まる。

精神分析などは過去がトラウマとなっているという考えだが、
その後、人間は過去を再構成することがわかってきた。
そうすると過去の記憶は、思い出したのか、
再構成されたのか判断がつかない。
結局、心理学にできるのは過去に何があったかは誰もわからない
ということを立証するぐらい。

しかし、一方で過去を肯定的にとらえている人は
否定的な人よりもより幸福で、より健康で、
しかも成功する確立が高いことはわかっている。
このとき、肯定的にとらえる過去が正しいかどうかは関係ない。
そうすると、こういうことがいえる。
人は過去に影響を受けるが、それですべてがきまるわけではない。
むしろ、過去の出来事に対する姿勢が、実際の出来事よりも重要。

この結論は自己啓発本の典型的パターンでもあるが、
根拠はこの辺にあるらしい。
虚偽記憶という考え方自体がでてきたのも1990年代だし。
それ以前のニーチェの永劫回帰もリンクするところはあるかも。

著者は、過去否定型の人が過去を肯定的に見るための方法も
提供している。
毎日の終わりに感謝したことのリストを作ることを続けると
時間はかかるが肯定的になっていくそうだ。
これも、自己啓発本によくあるパターン。
個人的にはポリアンナを思い出す。

続いて現在型だが、快楽型は社交的で刹那的な自由人。
自分に興味のあることであればフロー状態にすらなれる。
一方で、刹那的なため、衝動的な行動が目立つ。
プログラマは大抵このタイプだなと思う。

宿命論型は無力的で世の中は自分の思い通りには
決してならないと思っている人。
ちょうど日本でいえばゆとり世代でひとくくりにされている人達の
特徴と似ている。

現在型については、政治、経済の状況による影響がについても
示唆してある。
ただ、著者に興味がないのか、あまりくわしく書かれていない。
確かこの本が出版された当時(2009)、ネットで話題になった論文に
18-25歳時に不況を経験すると、努力しなくなるといったような内容のものがあった。
現在宿命論型の無気力を社会状況のせいにするわけではないけど、
そういうところは抑えてから批判したいと思った。

最後に未来型であるが、これはいわゆる理想の大人だと思う。

快楽型のように目新しいものに飛びついたりしないし、
あまりくよくよしない。
嘘を付くのがきらいで、快楽主義や宿命論を好まず、
過去を否定することも好まない。だから、過去否定型を敬遠する。
健康で安定した暮らしをして人との距離感のとり方がうまいため、
鬱になることも少ない。

もちろん、ストレスを抱えることもあるが、
未来型は周りからの支援を受けやすい。
ちなみに、現在快楽型は友人、知人からの支援が受けられるし、
過去肯定型は家族からの支援が受けられるが、
過去否定型は支援を受けにくく、家族とも衝突しにくい。
救いがない過去否定型。。。

決定がないように見える未来型だけど、
いわゆるワーカホリックになり易い。
仕事中心になって、慢性的な時間不足に悩み、
家族や友人を犠牲にする。
仕事はできるけど、家庭はうまくいかなくなる少し前の日本人に
多いタイプかも。

もうひとつの未来型である超越未来型は、いわゆる狂信者。
本書では自爆テロをする人の分析によって、
そのタイプを考察している。

このタイプには未来は二つある。
ひとつは、現世の未来で人間としての死で終わる未来。
もうひとつは死を超えた超越未来。
自爆テロは現世の未来に重きをおかず、
超越未来で報われることを求めているといえる。

ここまでが第1部で第2部は、第1部のタイプを踏まえ、
どのようにすべきかに話が進む。

正直第2部は第1部と比べると内容が薄い。
だから結論だけ。

最近の研究によると、人が覚える幸福感のうち、
遺伝子に左右されるのは50%、人生の状況(年齢、性別、
民族の文化、国籍、精神状態、健康、収入。。。)が
左右するのは10%らしい。
つまり、残り40%は個人の力でどうにでもなるそうだ。

その具体的な方法として本書は時間志向を理解し、
バランスのとれた時間志向を持つようにしようと言っている。
バランスのとれた時間志向とは以下の通り。
・過去肯定が強い。
・未来が適度に強い。
・現在快楽が適度に強い。
・過去否定が弱い。
・現在宿命論が弱い。

自分の志向を上記にあわせて調整していくことが、
どれほど幸福感を高めることになるかはわからない。
ただ、時間志向という新しい考え方は
割合理解しやすいものなので、知っていて損はないと思った。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: PE2011個人目標05-07 ベース本
感想投稿日 : 2011年7月28日
読了日 : 2011年7月28日
本棚登録日 : 2011年5月4日

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