1960年代に活発化した、日本から北朝鮮への「帰国事業」をたどる本。在日朝鮮人を「危険因子」と見なして「厄介払い」したい日本の保守派、「帰国」を「支援」することで自分自身の中に「人道主義」を見出して安心したい日本の革新派、そして朝鮮総連に日本赤十字社などなどの各者の利害がある程度一致してしまったために、「帰国事業」はあんなにも「盛り上がり」を見せてしまった、ということでしょうか。「日本のサヨクは『帰国事業』を煽っていたくせに、その過去に頬被りをしている」といった批判がある種の人々から時々聞かれますが、そうやって「サヨク」だけに罪を押し付けようとすることがいかに不当であるか、ということが本書を通してわかります。(たとえもっと洗練された言い方であったとしても)「社会の邪魔者を〈ソト〉に排除する」という点で、右も左も含む多くの日本人たちが協力して、「帰国事業」をプッシュしていた、ということではないでしょうか。精神的に苦境に立たされている外国人力士に向かって「国に帰りたいのならば、力士をやめて勝手にさっさと帰ればよい」などという発言が簡単に出て来てしまうのですから、この点に関わるこの国の人々の感覚は、いまでも当時とほとんど変わっていないように思えます。そう思うと、いろいろと気が暗くなるような本ではあります。いや、それはすなわち「よい本」だ、ということなのですけどね。(20070814)
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いろいろ
- 感想投稿日 : 2007年8月14日
- 本棚登録日 : 2007年8月14日
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