児童精神科医NINAの本棚»
NINAの本棚では,私が実際読んでみて「この本,いいかも♪」とか「ぜひたくさんのひとに読んでいただきたい!」と感じた本をご紹介していきます。私の独断と偏見でセレクトするので,きっとここに載せる本の大半は児童精神科・精神科や発達障害に関する書籍になると思いますが,ときどき違うジャンルの本が混じるかも…? もしも気になる本があったら,ぜひ読んでみてくださいね。
レビュー by NINAさん
政治とか経済とかにはこれまであまり積極的な関心を持とうとしていなかった私ですが(関心はあるにはあるのですが「私が考えてみたところで仕方がない」という,やや無気力な態度で過ごしていました…),この本を読むことが今世界レベルで起きている問題に目を向けるきっかけになったし,日本が抱えるようになった困難な状況に対してもいろいろな気付きを得ることもできて,私にとってとても有意義な1冊でした。
職業柄すごく気になったのは,勝間さんと雨宮処凛さんとの「脱・ワーキングプア対談」。
P.202-203で,「フリーターと正社員の分かれ道」みたいなテーマの話が出てくるのですが(引用した方が正確だし手っ取り早いのですが,著作権の問題もありますし私なりに要約して書いてみますね…原文が気になられる方はこの本をぜひ直接お読みください),フリーターと正社員の分かれ目は学歴や出身大学による部分ももちろん影響してくるけれど,コミュニケーション能力によって左右される面もある,といった意見が書かれているのです。そして,以前は採用時点でそこまで求められていなかったであろうコミュニケーション能力がこの10年くらいで突然重視され始めたように思える,と…。
本文のほうでは,教育の機会均等への模索とか現在行われているキャリア教育への疑問といった文脈で話が進んでいるのですが,私にとっては「就労にあたってコミュニケーション能力が重視されるようになってきた」ということをこの問題意識の高いおふたりも感じていらっしゃるのだということがとてもショックだったというか,薄々感じていたことに思いっきり直面させられた衝撃はとても大きかったのです。
コミュニケーション能力に生来的に難しさを抱えているこどもたちや若いひとたちと関わらせていただくことの多い私,実際に思うように就労できないで苦しんでいる患者さんと診察室でしょっちゅうお会いしています。彼らには「ありのままでO.K.」ってお伝えしたいし,それがうまく伝わって自己効力感を取り戻してくれるひとたちも多いけれど,なかなか仕事に就けなくてまた徐々に自信が揺らいできたりすることもよくあって。
コミュニケーションは得意ではないけれど,きちんと丁寧に何かを仕上げたり揃えたりすることには優れている…そんな能力が重要視されるような職場は,どんどんオートメーション化によって奪われていっているんですよね。人間が手間暇かけて仕上げた一点ものよりも,機械が均質に大量生産したもののほうが重宝される世の中になってきていることも影響しているのかもしれません。手軽さや簡便さが重視されて,じっくり待つことも苦手になっている…社会全体から何かしらそういう印象を受けているのは私だけでしょうか。
上手に立ち回るのは苦手で人付き合いは不器用だったりするけれど,実直で丁寧で責任感の強い,そんな彼らの持ち味がうまく活かされる形で,自立できるだけの収入を得られるような仕事にきちんと就けるために,私には何ができるだろう?
そんなことを考えさせられた1冊でした。
登録日 : 2009年07月03日 23:10:23


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