破滅型私小説の典型です。
主人公・北町寛多(=一目で西村さん本人と分かるネーミング)に与えられている大前提は、「お金がない」「我が強すぎる」というもの。まあ、自分の傍にいると一番面倒くさいタイプの人間ですよ。
これだけだと、どうしようもないダメダメ人間であって、読むのもウンザリ・読んでいてイラつくといった印象なのですが、さにあらず。
収録されている3篇ともに、同棲相手の女性・秋恵との会話のやり取りがなんとも滑稽で、無性に愛おしくなってしまうのですね。言葉の選び方など、幾分、諧謔を弄している印象も受けましたが、それは小説の中でのやり取りなので無問題、いいスパイスになっています。
単なるグダグダの私生活、といってもグダグダなのは寛多だけであり、秋恵はいたってまともなので、当然に会話のベクトルはまったく別の方向を向いているのでおかしい。それで止む無く寛多の折れることが多いのですが、と思ったら、またすぐに寛多の逆上⇒暴言&暴力。
「なんだ、この男は。とことんまで最低の下衆野郎じゃないか」といって、本を投げ捨ててしまいたくなる人もいるでしょう。でも、このやり取りを楽しめる人の方が、本を投げ捨ててしまう人よりもラッキーに思えます。現実にこんな状況に置かれたくはないですけどね、男であれ女であれ。
西村さんの作品はいずれも、自分のダメな部分を充分すぎるほどに描き尽くしています。潔い、というわけではないのでしょうが、そのスタンスが却って、読者に得も言われぬ爽快感を与えているのでしょう。
好き嫌いが極端に分かれる作品(作家)だと思いますが、僕は好きです、西村さん。
- 感想投稿日 : 2013年5月4日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2013年5月4日
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