一人の母として息子イエスのことを語るマリア。老後に息子の死に対する悔いと怒りを抱き、訪ねてくるヨハネとパウロが福音書で過去を曲げようとするのを疎ましく思い、その率直さがイエスを神格化しようとする彼らにも疎まれる、そんな「聖母」。作家の着想源がティントレットのキリスト磔刑だそうだが、カナの婚礼、ラザロの蘇り、十字架降下もが新たに語り直され、絵画好きとしても刺激的だ。「あのシーン」が書き換えられる。そう、受胎告知でさえ、あからさまには言わないまでも、このマリアは自身の処女性を否定し夫の存在を明言している。
人間イエスを描く試みは、様々な分野で行われてきたと思う。しかし、欧米では、私が面白がるのとは別の次元で信者から強烈な反応があるのだろう。大胆で勇気のある小説だ。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
海外
- 感想投稿日 : 2015年6月8日
- 読了日 : 2015年4月8日
- 本棚登録日 : 2015年6月8日
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