昨年読みそびれていたものを手に取った。
文芸が好き、翻訳が好き、できればその道に進みたい…という方面のみなさまには、全方位から「あ痛たたっ!」という攻撃を仕掛けられている感触のする作品だと思う。好きなものから離れられない(まあ、離れる必要があるわけではないが)、でもその道に進むには才能に乏しい。あきらめて何年も経ち、出かけた土地で出会った作品があるとき口からこぼれてしまったときの賞賛を受けて、小さな嘘が交じる。また称賛される。新たな「作品」を追加投入、称賛…のスパイラル。
念のため言っておくと、道徳の教科書的に読む作品では決してない。そうとはいえ、創作における「禁じ手」をめぐる人間の心理と行動を描いた作品であるし、クリエイティブな活動の基盤を持っている人がそれを自覚してやるぶんにはその代償も大きいのはある程度はしょうがないのかなあと思うけれど、これと同じことはネット上で結構目にする。しかもそっちのほうが多くの称賛を受けているという点も変わらない。世の中は引用に満ちているのは経験上わかっているものの、そこは何というか、目をつぶれるものとつぶれないものがある。偶然の一致とは考えられないものが自分とは別の方向から飛んでくると、結構びっくりしますよ。
知性がすみずみにまで行きとどいた華麗な筆致と、主人公が最初にハマる作家がナイーブさ全開の中原中也ということから、森見登美彦氏が描くところの「太宰治に心酔する腐れ大学生」のような人物を中心に据えた、笑いの勝った面白悲しいストーリーなのだろうとうっかり錯覚してしまったが、面白悲しさはあるものの、そういうおかしみとは離れた、シビアな面を直球勝負で見せつけられる作品だった。仕事・趣味にかかわらず、素材をネットのコピペで済ませりゃよいとほぼすべてにわたって思ってる人、ちょっと読んでから来るように。なにも取って食ったりはしないから。
- 感想投稿日 : 2016年2月1日
- 読了日 : 2016年2月1日
- 本棚登録日 : 2015年12月30日
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