副帝としてガリアに赴いたユリアヌスの晩年(といっても30代前半です)を描く最終巻です。
ガリアを意外な?軍事の才覚で治め、副帝として現地のガリア人社会の信任を得るユリアヌス。しかし、それは帝都にある皇帝に謀反の疑いを呼び起こすものでもあります。帝都のガリアに対する理不尽な指示に対し、ガリア人たちは「わが副帝を皇帝に」と擁立し、それやこれやでユリアヌスは帝都へ進軍(苦笑)。その流されようでいいのか?と見ていて思いながらも、その中には彼の伯父である皇帝に対する、一族を殺された恨みがわだかまっているのも事実であるわけで…複雑です。
しかも皇帝は死の床で、ユリアヌスを皇帝に指名して崩御。図らずも(帝都に進軍してるんだからちょっと図ったかな:笑)ローマ帝国全土を預かる身となってしまいます。
舞台となる宮廷のあるアンティオキアで、彼はさまざまな衝突を見ることになります。自分の連れてきたガリア人とアンティオキア人の気質や文化の違いからくる統治の難しさはもちろん、ローマ帝国(とユリアヌスの精神自身)を覆うギリシア・ローマの多神教とキリスト教の精神の衝突。政治勢力なら拮抗させてしまえばいいけれど、どちらかというと哲学の衝突になってしまい、それが軋轢以上のものを生みます。どちらもある面では正しく、ある面では受け入れがたい。ユリアヌスの独白を交えた(そしてほとんどの宮廷人に届かない)このあたりの描写が息苦しく迫ってきます。信仰についての切り口は違いますが、遠藤周作さんの「沈黙」に匹敵するのではないかと感じました。
キリスト教に寛容の精神を見せつつも、現世を生きるローマの精神を尊んだがために「背教者」とあざけりを受ける皇帝は、徒労感にさいなまれながらの東方遠征に出発し…結末は史実のとおりです。
3巻すべて読むと、1巻ごとにローマ帝国内部に渦巻く対立軸のようなものが描き分けられており、それがユリアヌスの心の中にもともと深く根を下ろしていたものを掘り出していくような印象を受けながら読みました。気品あふれる文体ながら、ある面でひどく残酷です。彼は何のために生きたのか、というやるせなさが沸く一方で、この大帝国はちょっとやそっとじゃ保てないのは当たり前か、とクールに考えたりもしました。
久々に極上の作品を読みました。ありがとうございました!と言いたい作品ですので、この☆の数とします。
- 感想投稿日 : 2008年4月5日
- 読了日 : 2008年4月5日
- 本棚登録日 : 2008年4月5日
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