カバーイラストが可愛い!本がその作家の「おうち」のようで、思わず手にとってしまった1冊。
翻訳家・柴田元幸さんひとりプロデュース・翻訳の「世界文学全集」。文字どおり直球勝負で、クラシックな文学作品の書き出しがひとくさりずつ訳されている。すべて柴田さんが好きな作品、翻訳にチャレンジしたかった作品のはずなので、いろいろ他に書いちゃいたいところだろうと思うけれど、そこを極力排して、シンプルに仕上げられている。
すべて、「いやあ、やっぱり柴田さんの訳だわあ!」という、すっきりと品よく、軽やかな筆致で訳されているのを読むのは楽しい。でも、シビアな見かたをすると、通して読んでいくうちに、「この作品は柴田さんの訳と合ってる」とか、「たぶん、ほかのかたの訳のほうがいいかも」というポイントが見えてくるような気がする。たとえば、ただ自分の初読の邦訳に引きずられているだけだと思うけれど、イギリス純文学や『アンナ・カレーニナ』の訳では、荘重な華麗さがもう少し欲しいような気がする。その一方で、英米児童文学はどの訳もとてもキュート!特に、『ウィニー=ザ=プー』は、石井桃子さんの訳に恐縮なさらずに、ぜひ目いっぱい訳していただきたいと思う。エミリー・ディキンソンの章は、趣向が効いていてそれだけで美しく、もとの文をぜひとも探ってみたくなる。
個人的に面白かったのは、原著が英語以外の文学作品の英訳をさらに日本語に訳している「重訳で読む世界文学」篇。『源氏物語』の『桐壺』が異なった英訳者で3パターン訳出されており、それぞれに英訳者の持ち味が違って、何を訳で伝えようとしているかの差がよくわかる。そういえばサイデンステッカー英訳の『桐壺』、高校の古文の時間に資料でもらったなあ。この訳でも結構正確だと思ったんだけど、最近出たタイラー訳の、それを上回る正確さには正直驚いた。原文に沿う翻訳、というのは日本語訳界隈では常に話題の中心となっているが、他の世界の翻訳者さんも、同じ方向を向いているということにあらためて気づかされた。視野が狭いな、私!
フランス語の「デギュスタシオン(試飲、試食)」という単語を思い出す、とても魅力的な世界文学全集。ここでつまみ食いしたのち本編に臨むのも、さも読破したように大いに語るのもよろしかろうと。
- 感想投稿日 : 2013年8月29日
- 読了日 : 2013年8月29日
- 本棚登録日 : 2013年8月14日
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