文庫化されたときに、カバーデザイン(特に題字)のデザインの美しさに惚れてマークしていたのだけれど、読むのを楽しみにしすぎてずるずると先延ばしにしていたものを、このたびようやく手に取った。
エジプトのナイル河口の町・アレクサンドリアの歴史と文化をフォースターがまとめた解説本という風情である。本文がわずか150ページ程度と薄いので、さくっと読めると思っていたが、なかなか手強かった。アレクサンドロス大王による建造からプトレマイオス朝エジプト、ローマ帝国以後に、フォースターが生きた時代までの約2000年あまりがコンパクトに詰め込まれている、手際のよさに感嘆した。この分野は長く細かく書こうと思えばどうとでもだらだら書くことができるものだけれど、各章がポイントを外しておらずにてきぱき読める。地図も掲載されているので、本文に出てくる地名をたどるために見返しながら、当時のアレクサンドリアを想像するのも愉しい。さすがに第3章「哲学都市」は哲学の素養が自分にないので苦戦したが、ユダヤ哲学、ギリシア哲学、初期キリスト教、イスラム教のポイントがコンパクトに解説されていて、簡単なリファレンスにもできる気がする。
全編が抑えた報告文のような文章で、フォースター自身がアレクサンドリアに抱いているであろう高揚感も表面からは見えないように仕上げられているのだが、かといって無味乾燥に陥らずに仕上がっていているのは、文章の取り回しの巧みさと、要所要所に配されている文学作品の断片だろうとも思う。フォースターだけではなく、おそらくヨーロッパ人にとっては、アレクサンドリアは今でもアラブ人の町ではなく、マケドニア王が建設し、ギリシア・ローマの多大な影響下にあった、欧州のルーツの町のひとつなんだろう。クレオパトラ7世の死の場面が3バージョンで付されているのも、そういうことの表れなんだろうと強く感じた。
本編とは関係ないが、フォースター自身の記した出版・改訂のいきさつが実に不幸で、申し訳ないけれど半笑いになってしまった。しかも、そのいきさつに追い打ちをかける不幸なできごとが訳注にさらっと記されており、これがまたブラックなどたばたで、「笑ってはいけない」と思っても口の端で笑ってしまう、ただものではない都市への案内書でした。
- 感想投稿日 : 2014年11月11日
- 読了日 : 2014年11月10日
- 本棚登録日 : 2012年4月8日
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