スティーブ・ジョブズ I

  • 講談社 (2011年10月25日発売)
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 著者は有名な伝記作家で,キッシンジャーやアインシュタインの評伝を書いて成功している。その彼に書いてもらいたいというジョブズ本人の希望でできた本。
 話題になったのはジョブズが死んだ去年だが,ようやく読んだ。ジョブズ自体にはそれほど興味もなかったのだが,著者の『アインシュタイン』を読んでとても良かったので,期待して読む。http://d.hatena.ne.jp/Polyhedron+diary/20120213/1329142942
 内容はさすが。魅力的なエピソードもあり,ぶ厚いけど読みやすい。
 勿論,本書が魅力的なのは,ジョブズの人生が波瀾万丈だったからには違いない。ヒッピー的感性にもかかわらず,若くして経済的に大成功。立ち上げた会社には暴君のように君臨するが,権力争いに敗れて経営権を奪われ,追放の憂き目に。上巻は,その後ピクサーで『トイ・ストーリー』を成功させるまで。
 上巻で気に入った名場面は,アップルが初めて成功させたウインドウ,アイコン,マウスといったPC用のGUIを,ビル・ゲイツがウィンドウズに採用したことで,ジョブズが激怒する話かな。皮肉なことにそのGUIのアイデアは,ゼロックスの子会社からジョブズが「盗んできた」ものだったわけ。
 あと,ミッテラン大統領夫人がアップルに来訪した時の話にはウケた。ジョブズは製品や技術について熱っぽく語るのに,夫人があんまり労務環境のことばかり質問してくる(ミッテランは社会党系)ので,「社員の福祉にそれほど興味があるなら、いつでも働きに来ていい。」と切り返すシーン。
 ジョブズをとりまく家族模様に関して,一章があてられている(第20章)。実の両親が親(母方祖父)の反対で結婚できなかったため,ジョブズは生後すぐ養子に出されるんだけど,その祖父はまもなく死亡。二人は晴れて結婚できて,女の子を授かる。つまりジョブズには実の妹がいた。
 その実妹の存在は,ジョブズが実母を探し当ててから判明。以後ジョブズはこの母子と良好な関係を保つが,妹5歳で家を出ていった実父とは,生涯会おうとしなかった。ちなみに,この実母探しを,ジョブズは養母が亡くなった後に始めている。別にそういう心配りができない人ではなかった。

 その他メモ。
・「フルータリアンは臭くならない」って信じてて(本にそう書いてあったらしい),一週間もシャワー浴びなかったとか。一緒に働いてた人はかわいそ。
・アタリ時代以前のジョブズは,かなりカウンターカルチャー尽くしって感じ。菜食主義,禅宗,瞑想,LSD,ロック…。これらは彼の通ったリードカレッジで特に流行ってたみたいで,いろんな妙な友人とかもできる。
・ジョブズはもともとは,エレクトロニクスのギークなんだよね。父親(養父)は機械系だったけど,そっちにはさっぱり食指が動かなかった。父に旋盤なんかを習ってたら,それはそれで面白かったかも,なんて後年しんみりしてる。
・ジョブズの養父は二次大戦時に沿岸警備隊所属で,戦争終わって除隊になるとき仲間と「二週間で結婚相手を見つける」と賭けをして,それで勝ったんだって。でも九年子宝に恵まれず,養子を迎えた。
・ジョブズには娘のリサが生まれるけど,名前をつけただけ。リサはヒッピーのコミューンで産まれて,その後は母子で生活保護を受給する生活。生活保護を支給してた郡がジョブズを訴えて認知と養育費を求める。ジョブズは当初全面的に争う構えで,リサの母はさすがにショックだったらしい。
・「現実歪曲フィールド」というのはスタートレックに出てくる表現で,ジョブズのむちゃくちゃぶりを形容するのに最適な語らしい。彼の周りでは現実が柔軟性をもってて,誰が相手でも,彼は目的のためなら現実をねじ曲げてしまう。周囲は迷惑だけど,それが実際に効果を発揮してしまう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 人物・伝記
感想投稿日 : 2012年11月7日
読了日 : 2012年11月7日
本棚登録日 : 2012年2月13日

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