妹背山婦女庭訓 (橋本治・岡田嘉夫の歌舞伎絵巻 5)

  • ポプラ社 (2012年5月1日発売)
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橋本治・岡田嘉夫の歌舞伎絵巻シリーズです(**シリーズの既読本:『仮名手本忠臣蔵 (橋本治・岡田嘉夫の歌舞伎絵巻 (1))』)。

メインストーリーのベースになっているのは大化の改新です。逆臣である蘇我蝦夷子・入鹿親子と、天智天皇を守る藤原鎌足・淡海(不比等にあたる人ですね)親子を中心に、サブストーリーが絡み合いながら、メインストーリーの大団円へと向かいます。三種の神器、神の使いとされる奈良の鹿と石子詰、三輪山に伝わる三輪山伝説、また年中行事の井戸替えなど、様々な神話・伝説・民間伝承などが組み入れられているのもおもしろいところです。
全五段で、通し狂言で上演すると相当の長さになると思います。この演目は文楽にもあります。三段目、特に「妹山背山の段」と呼ばれる、川を挟んだ不仲な両家の間で起こる悲恋の物語(サブストーリー)は、人気もあり、このお語の山場の1つです。吉野川と桜の美しい景色の中、二人の若い恋人たちの思いは報われず、壮絶なまでの悲劇の結末を迎えます。

今回、七夕にちなんでご紹介するのは、この後の部分、四段目の、先ほどとはまた別の恋人たちのお話です。
こちらは三角関係でして、烏帽子折り(烏帽子を作って売る人)の求女(もとめ:「女」とついていますが、男です。優男にはお似合いの名前というところでしょうか)として身をやつした淡海を巡り、入鹿の妹で密かに敵方の淡海に思いを寄せる橘姫と、町娘のお三輪が火花を散らします。
ときは七夕。町内で井戸替えが行われる中、お三輪は、寺子屋で、苧環(おだまき:棒のついた糸巻き)をもらいます(歌舞伎美人HPより・苧環の説明)。赤い糸と白い糸の二つの苧環に針をつけて星に祈ると二人は結ばれるというおまじないを教えてもらったのです。お三輪が求女にその話をしていると、橘姫が現れ、女同士、喧嘩となります。身分を明かせない橘姫は立ち去ろうとしますが、求女はその袂に赤い苧環の糸を縫い付け、糸が導くままに後を追おうとします。お三輪は白い糸を求女の袂に縫い付け、やはり後を追います。
その後、橘姫が帰る蘇我入鹿の屋敷へと場面は移っていくのですが、さぁ、星に願いを掛けたお三輪の恋は実るのでしょうか。それとも恋敵の橘姫が勝つのでしょうか?
そして淡海たちは、天皇に取って代わろうとする天下を騒がす大悪人、蘇我入鹿を討つことができるのでしょうか。
息もつかせぬ怒濤の結末が待っています。

<参考>
日本芸術文化振興会・文化デジタルライブラリー『妹背山婦女庭訓』
http://www2.ntj.jac.go.jp/dglib/contents/learn/exp4/index.jsp
このややこしいお話の概要がつかめます。

*「井戸替え」(=井戸の大掃除)は、古くから行われてはいたようですが、七夕に行うようになったのは、江戸時代のようですね。そこは歌舞伎のミラクルワールドというところで(^^;)。

*このお話では蘇我入鹿は妖しい力を持っていて不死身ということになっているのですが、その理由がすごいです。ある意味、ファンタジー・・・? ちょっとびっくりします。入鹿の名前と関連があります。この設定を思いついたのが、原作者の近松半二なのか、それとも伝説としてはほかにも類話があるのか、ちょっと興味があるところです。

*かわいい町娘、お三輪ちゃんの衣裳は、『歌舞伎のかわいい衣裳図鑑』の表紙になっています。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 伝統芸能
感想投稿日 : 2014年7月7日
読了日 : 2014年7月7日
本棚登録日 : 2014年7月7日

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