ハキリアリは中南米に生息する、「農業を営む」アリである。
「ハキリ」という名前が示す通り、葉を切って巣に運ぶ。だが彼らはその葉を食糧にしているわけではない。その葉を元に、キノコの仲間である真菌類を育てている。
ハキリアリは他のアリの仲間と同様、社会性の動物である。卵を産む役割を持つ女王アリを中心に、働きアリや兵隊アリが協同で1つのコロニーを形成している。集団構成員は数百~数千、時に数百万匹に及ぶこともある。働きアリは細かく分業がされ、葉を切り取る係、その葉を運ぶ係、育てている菌の面倒を見る係とさまざまである。大きさも異なる。
アリは1匹だけで生きられるわけではなく、コロニー全体として成立していることから、個体を超えた「超個体」的存在と見なす研究者もいる。
分業は相当に細かく、葉を運ぶアリが寄生バエに襲われるのを防ぐ係、通路をいつもきれいにしておく係もいる。すごいところでは、有害廃棄物を中間集積場に持って行く係とさらに最終ゴミ捨て場に持って行く係が分かれている。後者は高齢のアリの仕事である。こうすることで、感染がコロニーに広がったり、若いアリが有毒物質で倒れるのを防いでいるのではないかと考えられるそうである。
女王アリは受精卵を産むが、正常でない卵が生まれることもある。働きアリもときに孵化しない卵を産むことがある。こうした卵は「栄養卵」と呼ばれ、幼虫や女王アリに与えられる。
菌はコロニーに代々受け継がれるものであり、アリと菌は相利共生状態であると言える。作物の菌に寄生する病原体もおり、地下の巣では攻防が繰り広げられている。
他のコロニーを襲って、よく育った菌を奪うアリの強盗団もいる。
ハキリアリの巣はときに想像を絶する大きさになり、数千の部屋が作られることもある。ある研究グループが、巨大なコロニーにセメント(!)を流し込んで型取りをしてみたところ、6トンのセメントと8000リットルの水を要したそうである。
本書では、豊富な写真とともに、ハキリアリのディープな生態を紹介している。
比較的薄い本だが、驚異的な世界が詰まっている。
<参考>
『新版 動物の社会』
*テレビでハキリアリの番組をやっていて、おもしろそう、と借りてみました。番組では、実験室にハキリアリの巣を再現していて、それはそれで圧巻。(本書にはなかったのですが)ハキリアリが多くの巣をパトロールするやり方が「巡回セールスマン問題」を解くヒントになるのではないか、なんていう話も出ていました。粘菌が地下鉄路線図を設計する2010年イグノーベル賞の話をちょっと思い出しました。
複雑系、実は小さい生きものが解く!
- 感想投稿日 : 2013年7月22日
- 読了日 : 2013年7月22日
- 本棚登録日 : 2012年5月21日
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