建築する動物

著者 :
  • スペースシャワーネットワーク (2014年7月31日発売)
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<ホーム スイート ホーム>

住み心地のよい家に住みたい。その願いはもちろん、人間だけのものではない。
動物たちもまた、安全で快適な家を求め、長い年月の間に、種ごとに特徴的な住処を築きあげてきた。
進化の途上で、体のつくりが変化してきたように、巣作りの能力もまた、ある意味、自然淘汰や性淘汰を経て研ぎ澄まされてきたとも言える。よき巣を作るものは環境の中で生きのび、あるいは性的パートナーに選ばれ、その能力を子孫へと伝えていったのである。
「巣」とは体の外側であるが、また、外界との境にあるものでもある。外から見れば鎧として、中から見れば安全な囲いとして、自と他をわけるもの、それが巣だ。

本書は自然写真家による、さまざまな動物の写真集。
スタジオで巣のみを撮影した写真と、自然の中の巣の様子の両方が収録されている。ときには作製途中の写真もあり、構成を多角的に見ることができる。
章立ては5つ。「鳥」、「節足動物」、「哺乳類」、「サンゴ、二枚貝、巻き貝」、そして最後が著者自身の撮影にまつわる裏話。

いずれも究極の「用の美」と言おうか、美しさ・合理性に驚嘆させられる。
ハタオリドリは、木からぶら下がる形の巣を作る。つがいは個々に巣を作るが、その巣をつなぎ合わせることもある。こうして強固な砦となった「共同住宅」は、敵を寄せ付けない難攻不落の城となる。
ニワシドリは、交尾のための巣、あずまやを作る。あずまやの前には、雌を惹きつけるため、果物や花、キノコ、カタツムリの殻、人が残していったゴミなど、とにかく目立つものをずらりと並べる。個々にこだわりのあるディスプレイは呆れるばかりの迫力である。
トビケラの幼虫は身を守るための筒巣を被って移動する。身の回りにある植物の茎や実、貝殻、小石などを、自分が分泌する強力接着剤で固めて筒にするのだ。さまざまな素材で作られたそれらは、「がらくた」を集めた子供の頃の宝箱を思い出させる。
圧巻なのは、オーストラリアの磁石シロアリの巣。平たい塚の形をした彼らの巣は、かまぼこ板を立てて並べたように、ぴたりと正確に南北を向く。朝と夜は、広い面で日の光を集めて巣を温め、暑くなる日中には、細い面が太陽の方を向いて巣の温度が上がりすぎないようにしているのだ。
小さな齧歯類、カヤネズミは高い草むらの上方に巣を作る。小さいから捕食者も多いが、小さく軽量であるゆえに、草の上に巣を作っても支えることができるという利点もあるわけだ。
貝の殻は体の一部でもあるが、また住処でもある。オウムガイの殻の断面は、リズミカルに規則に従って渦巻きを描き、見入ってしまう美しさがある。
最終章で紹介される、さてこうした美しい写真を撮るにはどういう苦労があるか、というの解説・写真も楽しい。自然写真家というのは、創意工夫と努力と忍耐を要する仕事であるわけだ。

巣を作った動物たちと、そして著者に敬意を表したい。


*原題が"Architektier"。著者がドイツ人なので、ドイツ語から来ているのだと思うのですが、Architekt(建築家)+Tier(動物)の造語、なのですかねぇ・・・?

*『日経サイエンス 2015年 03月号』「巣作りの進化学」にも著者の写真が何点か収録されています。

*本書には出てきませんでしたが、極楽鳥の羽根を集めるニワシドリもいるそうです(『極楽鳥 全種 世界でいちばん美しい鳥』)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 生物
感想投稿日 : 2015年3月9日
読了日 : 2015年3月9日
本棚登録日 : 2015年3月9日

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