日経サイエンス2014年08月号

  • 日本経済新聞出版 (2014年6月25日発売)
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特集は「素粒子論の危機」
表紙は超対称性粒子を探索するCMS検出器。
素粒子物理学において、世界をきれいに説明するのが超対称性理論であり、これは、既知のすべての素粒子に未発見のパートナーが存在するというものである。このパートナーを超対称性粒子と総称している。
これまでの実験では発見されていないが、第2期の実験での発見が期待される。一方で、発見されなければ大きなパラダイムシフトが必要かもしれないという。
すべてが説明される大統一理論への道は開かれるのだろうか。

「STAP細胞の正体」は意欲的で丁寧な記事である。
STAP細胞が、個体では致死性とされる8番染色体トリソミーであったこと、またSTAP幹細胞とされていた細胞は、共著者が筆頭著者に渡したマウスから作製されたものではありえないとする結果が、図入りで親切に解説されている。日経サイエンスは8月号の発行前に、号外「 STAP細胞 元細胞の由来,論文と矛盾」も出している。この件にかける、本誌と執筆者の覚悟と意欲が感じられる。
Natureの二報も先頃、撤回された( Nature 511, 5–6 Editorial "STAP retracted")。
この件、これまでに思わぬ展開を見せることが多々あり、今後も予断を許さない感がある。まず第一に科学的な議論・検討が十分なされることを望みたい。

「初期人類が滅ぼした肉食獣」。
ホモ属繁栄に際して、肉食を始めた人類の祖先が、競合する的である肉食動物を絶滅に追いやった可能性があるという。肉食動物の衰退とホモ属の進化を重ね合わせようとする試みがなされており、現時点では完全に重なったわけではなく、正確な立証は将来的にも難しいかもしれないが、見方としてはおもしろい。

「バーチャル細胞 生命宿る」
これも非常に興味深い話題。
単細胞生物を丸ごとシミュレートするコンピュータモデルが完成している。感染性細菌マイコプラズマ・ジェニタリウム(Mycoplasma genitalium)のあらゆる遺伝子と分子の機能を網羅し、シミュレートする。細胞の生物学的機能を28の異なるモジュール(タンパク質の合成、DNA複製、RNAのプロセシングなど)にわけ、それぞれに対して数学的な方法が適用されている。実際の細胞の挙動に併せて、パラメータを制限したり、数式を改善したり、といった作業を繰り返しつつ、現時点では、コンピュータモデル細胞は、細胞分裂が出来るまでになっているという。今後は、ヒトなどの免疫系の細胞や、あるいは単細胞でなく多細胞への応用も目指していくという。
こうしたモデルが完成すれば、「細胞の一生をのぞく窓」として、多くの知見が得られることだろう。

「蜂蜜がとぐろを巻く謎」
蜂蜜のように、ある程度粘性のある流体は、さらさらとまっすぐ流れるのではなく、ロープがとぐろを巻くように螺旋構造を取る。
流す流体の粘性を変えたり、流し始める高さを変えたりすると、この構造がさまざまに変わってくるという。
物理的メカニズム解明に向けて、さらなる研究が行われつつある。
月面上など、重力が変わるとまた変わるんですかね・・・?

巻頭のインタビュー記事「挑む フロントランナー」は異色の数学者。
幾何・代数・解析すべての要素を含む「作用素環論」をテーマとする京大教授だが、台詞がふるっている。曰く、「なんで人間ってこんな数学を解く能力があるんでしょうね」。
小気味よいほどの明るさ。数学がわからなくても、楽しく読める記事。
(*あ、でも読み終わっても数学がわかるようにはなるというものではないんですけどね(^^;))

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 科学
感想投稿日 : 2014年7月6日
読了日 : 2014年7月6日
本棚登録日 : 2014年7月6日

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