ローマ法王の休日 [DVD]

監督 : ナンニ・モレッティ 
出演 : ミシェル・ピッコリ  イエルジー・スチュエル  レナート・スカルパ  ナンニ・モレッティ  マルゲリータ・ブイ 
  • Happinet(SB)(D)
2.58
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本棚登録 : 459
感想 : 84

コメントで散々書き尽くされている通り、コメディかと思ってかりてみたらとても憂鬱な雰囲気の映画でびっくりしました。
始まりから、枢機卿たちの「法王に選ばれませんように!」という祈りの数々。この入り方、シュール。聖職者たちの人間くさい葛藤…迷える子羊たちを正しい道へと導く老獪たちの、なんとまぁ情けない姿!それがまた愛らしい感じで、メルヴィルに決まった瞬間のメルヴィルの呆然とした姿と、安らかな枢機卿たちの姿、静かな拍手…。(内心ガッツポーズだろうなw)ああ、どこで逃げだすのかな、どこでこの重圧に負けて休日しちゃうのかな、とわくわくしてたんですが、メルヴィルさんの精神不安定具合がガチで、雲行きが怪しい…。精神科医まで来てしまうし、挙句の果てには逃走…休日?逃避行でしょう。アン王女はきちんと自らの立場に戻ってきたけれど、彼は法王の座を放棄。カトリックはどうなってしまうの…?不安がいっぱいの終わり。

物語自体が「憂鬱」に満ち溢れていますが、この「憂鬱」を助長させることになったと考えられるのは、「演劇」という要素でしょう。チェーホフの「かもめ」の公演を控えた劇団とのめぐりあわせと、メルヴィルの劇役者になりたかったという過去。そして、現実においては「法王」という役を演じなくてはいけない、という重圧。
様々な人生が異様なまでに絡み、連鎖的に起こっていく不幸の渦を客観的に捉える。「かもめ」にはそんな印象をもっているんだけど、この感覚が「法王の休日」にかぶっていくと…現実の役割の重みに押しつぶされそうになる反面、本物の劇役者との関わりによって、現実と舞台がお互いの世界を侵食しあい、ああ、もうセリフひとつひとつが、主観性を帯びたり、架空の、言葉遊びになったり…。
ああ、あと、「法王」という存在の空虚なこと。中身なんてどうでもいいのです、「法王」という、たんなるひとつの「記号」(映画だと、憲兵が法王の代役を務めていましたね、要はそういうことなのですな)にすぎない。ただそこにあればいいのか。これもメルヴィルを失望させるひとつの要因だったのでしょう。

これを「映画」というまたひとつの「舞台」で展開されると思うと…、でもこの作品の場合はそこまで「映画」という媒体に言及するような必要はないと思う。たんたんと「演劇」と「人生」について、さらには「宗教」について考える場として機能するのみだ。あえていうなら、より客観的な立場を観者に提供するものとして、有意義だったのかな。

そして、最終的な役割の放棄!
彼は自ら、自分のできる範囲の役柄を選んだ。演劇学校に落ちてしまった過去をもつ彼は、やはりなにものかになりきるなんてことはできなかった。「自分」の人生を歩む決意をしたのだ。

そう考えると、メルヴィルはようやっと、自分の人生を歩み始めることができるのかなぁ。憂鬱はいつでも付きまとうものですからね、折り合いをつけてやっていくしかないものです。劇的な事件ですが、非常に現実的に現実を見つめた映画です。地に足がついているからこその辛さを感じました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: MOVIE
感想投稿日 : 2013年9月12日
読了日 : 2013年9月12日
本棚登録日 : 2013年3月12日

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