日々ごはん 8

著者 :
  • アノニマ・スタジオ (2006年12月1日発売)
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感想 : 13
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あちこち取材に出掛け、どっぷりと対象にもぐり込んで心を遣い、体ごとで書いているランディさんのことを、この家にいる間は、風呂に入れて、おいしいものを食べてもらって、ゆっくり緩めさせてあげたい。足を伸ばして、背筋の力を抜いて、脳も体もぐでんぐでんに柔らかくしてあげたい。話しながら、そういう衝動にかられていた。だってランディさんは、私などとは覚悟が違う。作家というのはそういう職業だ。

終わってから、楽屋へタカシ君と郁子ちゃんに会いに行った。すっかり使い果たしたタカシ君は、「歌いながら何度も、スゲーなーって思って。こんな大勢の人たちが、ボクの歌をこんなに歌ってくれてるんだなーって。だって、皆の声が聞こえてくるんだよ、ワーッて。もう、ありがたくてさ。泣きそうになっちまった。

私は、とくに飲んでいる時なんかにはっきり出てくるのだけど、いろいろ理解するのに時間がかかる。脳から口にいくまでの時間もかかるみたいだし。そのスピードに合う人と私は結婚したからよかったけど、昔は、あからさまに「のろいなあ、どんくさいなあ」とイライラした顔をする人もいた。「声が小さい!」と怒る人もいた。自然とそういう人たちとは関わりがなくなって今に至るが、若いころはそれがコンプレックスで、けっこうへこんでいた。悩んだって仕方ないのに。→すごく共感したし、奇望がもてた。

本当は、本の文章のことを始めなければならないのだが、今ひとつ気持ちが入らない。ちょっとレシピをいじってみたりもするが。ちょっとこの感じは小説家みたいかも。何かがまだ煮詰まってなくて、のど元いっぱいのところまでのぼって来たら、うわっと書き出せるような気がするのだ。今はまだ、そのムードがやって来ないのが分かる。確かなのはそれだけ。だんだんに押し寄せてくるよう、そういう風に体をもっていこうと思う。

「クウネルがゆく」
友だちすこしでも大丈夫。本当に好きなことにはだれもがひとりでむかっていくんだよ

「フィッシュマンズ」の初期のCDを繰り返しかけながら料理。「フィッシュマンズ」、ある時期からまったく聞く気が起こらず、ずっとそのままになっていた。でも、何のきっかけもなく最近ビデオを見て、そしたらいきなり体の中にどんどん流れ込んできた。すごくいい。初期の曲のことも前はあまり好きではなかったのだが、今、すごくいい。なんでだろう。

今回は校正をやりながら、「フィッシュマンズ」の音楽を聞いていました。毎回、自分の中で流行りの音楽があって、おなじCDを飽きもせずに繰り返しかけるのです。いち時はまったく聞かない、まったく入ってこない時期もあった「フィッシュマンズ」ですが、秋から冬に向かう今の季節に合っているのか、それとも今、自分の内面がそういう季節なのか、音楽や本や映画は、いつも私に波を送り、物語を紡がせ、小さな渦巻きを作ってくれます。

自分という者について、若いころ、私は戸惑っていたように思います。自信がないのです。誰かに褒められないと、まっすぐに立っていられない。やりたいことがうまくいかないのは、きっと周りのせいで、自分が悪いわけではない。でも、ホントにそれでいいのだろうか。このままで自分はいいんだろうか。「どんな時でもの、だーれも、自分のことなんか褒めてくれんし、認めてくれんのんで。でもの、世界でたったひとりだけ認めてくれる人がおるの。それは、誰でもないこの自分。ほいじゃけ、自分の面倒は自分でみんにゃあ。そんなの当たり前じゃん」三十歳を目の前にした冬に出逢った人は、そんな風に私に言いました。

読書状況:未設定 公開設定:公開
カテゴリ: エッセイ
感想投稿日 : 2016年5月1日
本棚登録日 : 2016年5月1日

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