ドゥームズデイ・ブック(上) (ハヤカワ文庫 SF ウ 12-4) (ハヤカワ文庫SF)

  • 早川書房 (2003年3月15日発売)
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感想 : 68
5

2054年のオックスフォード大学では、開発されたタイムトラベル技術を歴史研究に利用している。女子学生キヴリンは現地調査のため、飢餓と疾病が蔓延する14世紀にタイムトラベルするが、キヴリンを現地に送り届けた技術者が未知の病に倒れ、キヴリンが無事現地に到着したか確認できなくなってしまう。キヴリンの非公式指導教授のダンワージーは、彼女の安否を確認すべく奮闘するが、未知の病が次第にオックスフォードを覆ってしまい… 一方、キヴリンは14世紀に到着するも原因不明の病に倒れてしまう。現地人の看護により一命を取り留めた彼女は、もとの時代に戻るために出現地点を目指すが…

全2巻。終盤までは、物語は遅々として進みません。張り巡らされた問題は何一つ解決しないまま、ただいたずらに時が過ぎるばかりで、とにかくもどかしい気持ちでいっぱいになります。とはいえ、退屈というわけではありません。なんといっても「ひとの話をきかない登場人物」の多いこと多いこと。読中、何度も殴ってやりたい衝動にかられるぐらいで、こういった憤りやキヴリンと現地人の交流を微笑ましく思いつつ、読み楽しんでいきました。

終盤以降は、これまでの鬱屈を爆発させるかのような怒涛の展開をみせ、一気にクライマックスまで突き進みます。ただ、この怒涛の展開は決して気分が晴れ晴れするものではないのです。ダンワージー側は悲惨さの割りにお気楽な展開でしたが(メアリが可哀相だ)、キヴリン側は違います。14世紀を襲った黒死病を目の当たりにし、現地人を助けるべくあがき苦しむも訪れるのは歴史の惨劇のみ。読んでいるこちらが悪寒を感じる展開で、彼女がのこした記録(ドゥームズデイ・ブック)の淡々とした描写が悲惨さを助長させました。歴史は変えられないというのが、この世界の鉄則であるだけに、「みんなとっくに死んでるんだ。そう考えても、とても信じられなかった」「どうかロズムンドを死なせないでください。どうかアグネスを感染させないでください」といったキヴリンの言葉が胸を刺します。

先日読んだ著者の短編集がコミカルな内容だっただけに、落差が激しかった… 過去も未来もパンデミックが発生しており、時代の危険度合いは普遍的であるのかもしれませんが、それでもキヴリン側の描かれ方が悲惨かつ迫真であっただけに、歴史の冷酷さを感じる物語でした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: SF
感想投稿日 : 2014年7月6日
読了日 : 2014年6月30日
本棚登録日 : 2014年6月30日

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