中世日本の予言書: 〈未来記〉を読む (岩波新書 新赤版 1061)

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  • 岩波書店 (2007年1月19日発売)
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感想 : 10
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日本における予言書、所謂「未来記」を紹介した書。百王思想などの典拠とされた『野馬台詩』、聖徳太子に帰された予言群である<聖徳太子未来記>を中心に取り上げ、中世において特に流布した未来記の意義を考察する。
本書はまず未来記流行の背景となる中世の説話的状況(神仏の逃走や談合譚)から始まり、続いて『野馬台詩』、<聖徳太子未来記>の紹介とその解釈史を追っていく。著者は中世社会において未来記が大きな影響力を有していたことを指摘し、また未来記の解釈が歴史記述でもあった点を説いている。個々の予言を過去や現在の事象に当て嵌めていく行為が、結果として歴史を捉えなおしていく行為でもあるという主張は確かになるほどと思われ、中世の説話世界の一側面を考えさせられた。
ただ、読んでいて著者の主張に賛同できない所が幾つか見られた。著者は本文の中で、未来記的な歴史叙述が一元的・直線的な近代的歴史観を相対化し、多様な歴史叙述からなる歴史像を再構築し得るものであると位置付けている。が、個人的には未来記的な歴史叙述が学問的な精確性をどれだけ有し得るか疑問であり、また具体的な歴史像も見えてこず納得出来なかった。同時に、著者は近代の創作における未来記をも未来記考証の対象に加えるべきとするが、娯楽作品の中において話を展開するガジェットでしかないそれらを学問的に考察する意義があるのかとも感じた。全体的に見て、未来記に対し無理に現代的意義を持たせようとしている感じが否めなかった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 伝説
感想投稿日 : 2014年4月9日
読了日 : 2014年4月9日
本棚登録日 : 2014年3月26日

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