日本は「恥の文化」と定義づけたルース・ベネティクトのあまりにも有名な「菊と刀」が、確かな根拠に基づく科学的な「発見」ではなく、科学的装いをこらした念入りな創作である、と論じた1冊。固定観念を突き崩して、日本人と恥について再考するのにはいい本。
「菊と刀」は終戦直後から執筆開始され、1年後にアメリカで出版されベストセラーになったとのことだが、ベネティクト自身は一度も日本にフィールドワークに訪れたことはなく、文献と在米日本人からのヒアリングでこの本を書いていると言うこと自体、「文化人類学者の本」としてはいささか信憑性に欠けるのだが、著者はその内容を追っていく中で、ベネティクトの論の進め方における一般論から特殊解への「すりかえ」や、日本=悪、アメリカ=善という論調への巧妙な誘導を指摘していく。
さらに、ベネティクトの戦前の論文と「菊と刀」での主張の推移を、当時行われていた共産主義者に対する「魔女狩り」からベネティクトが逃れるために、愛国主義的な「菊と刀」を執筆したと推測し、さらには彼女の大学での地位固めのため、そしてアメリカの原爆投下に対する自己正当化(日本=悪=天誅が下って当然)のため、と著者は推論していく。
確かにこの本を読むと、著者の論には頷ける点が多い。よく文化人類学者が揶揄されるのも分かる気がする。巻末に参考文献が載っているので、裏を取っていく作業は可能。(けれどかなり骨が折れそう)
ちなみに本筋とは外れるが本書で印象に残った箇所は、
・原爆の倫理性について議論するとき、(最初の広島ではなく、2回目の)長崎こそがその中心になってしかるべきだと考えるのである。
・1897年、日清戦争に日本が勝利した2年の後、(中略)アメリカは日米衝突に備えた「オレンジ計画」という対日戦略プログラムを策定していた、という驚異的文書が近年解明、紹介されたのである。
・日本ではお月様の中に(お釈迦様に我が身を焼いて食べさせようとした)兎がいて餅をついて楽しく暮らしていると伝えられ、ヨーロッパでは罪を犯した男が月に送られたと言われている。
という件でした。
- 感想投稿日 : 2010年7月5日
- 読了日 : 2010年7月5日
- 本棚登録日 : 2010年7月5日
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