ブラバン (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2009年10月28日発売)
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本棚登録 : 1472
感想 : 195
5

概ね世の中には二種類の人間が存在するが、私はその一方、即ち高校吹奏楽部経験者である。この本は我々にとって読了が惜しい程楽しめる本であった。とは言っても、もう一方の人々が楽しめないようなマニアックな本ではない。楽器や曲の解説は本文中に書かれているし、作中の高校生は、帰宅部でも素直に感情移入できる若い率直さに満ちている。
物語はこの「高校生」が大人になった「自分」によって綴られる。忘れ去ってしまった筈の十代を手繰り寄せながら、何十年もの月日ですっかり変わってしまった、そして何も変わっていない自分を、作者の持つ優しいタッチでストーリー中に滲み出させているのが最大の美点であると感じた。
前述したが楽器や曲などの解説は本文中に十分書かれている。そして、高校生の自分と今の自分のエピソードが行き来しながらストーリーは進行するのだが、この両者により、物語の「スピード感」や「キレ」が落ちている。決して空気感の重々しい本では無いのだが、軽めの本が好きな人で、スカッと爽やかなタッチの青春ものを一気に読み切ってしまいたいと期待する人には若干つらいカモ。
私事であるが、作者と私が同じ中学の同期で、それぞれ川を隔てた公立高校に通い、同じく高校から吹奏楽部に入部したこと、それに、私が今春出身高校吹奏楽部の定期演奏会を約30年振りに聴き、当時の懐かしい仲間と再会した頃、たまたまこの本を手に取ったこと、このふたつが、この物語の色彩を更に深く彩ってくれた。本との出会いというのも不思議なものである。作者と私とは在学時代からほとんど接点は無いのだが、陰ながら応援している。これからも自分らしい本を書いてくれ、津原くん。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2011年5月10日
読了日 : 2011年5月7日
本棚登録日 : 2011年5月7日

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