「芸術新潮」のベン・シャーン特集号に載っていたクレー小論の前編を読みたくて、ひとつさかのぼって借りた「芸術新潮」が高峰秀子の特集号だった。彼女が映画に出ていた俳優デコちゃんであることくらいは知っていたが、といっても出演作をひとつも見たことがなく、没後一年になることも(それで年末頃には本屋の平台に本が並んでいたのだ)、たくさんの著作があることも、私はこの特集号で初めて知った。
先に、高峰の養女になったという斎藤さんの『高峰秀子の捨てられない荷物』が借りられたので読み、デコちゃんご本人の本もやっと借りてきて読んだ。
この本は、高峰が「筆を折る」前の、さいごの随筆集の一冊。70代になった高峰が「ドッコイショ!」と一つひとつ書いた話は、おもしろくて、ときどきげらげら笑えて、しんみりするところもあって、でもやっぱりおもしろかった。
▼私は現在、七十歳を越えて、日一日と老いてゆく自分に出会っている最中である。ボケ進行中の自分をじっと見ているのは結構面白い。次はどんなポカをやらかすだろうと、スリルもあってワクワクする。(p.200)
高峰夫妻が「人生の店じまい」について考えはじめたのは、四十歳も終りの頃だという。そして身辺整理にとりくみ、そのメドがついたころから老後の生き方について話し合い、「生活を簡略にして、年相応に謙虚に生きよう」と結論を出した。
思いがけず、ある日突然死んでしまうこともあるだろうと思う。祖母もそうだったし、母もそうだった。そのときが、いつやってくるかは分からないけれど、贔屓目にかぞえても、人生の店開きよりは、もう店じまいのほうが私には近いのだとあらためて思う。
(3/1了)
- 感想投稿日 : 2012年3月6日
- 読了日 : 2012年3月1日
- 本棚登録日 : 2012年3月1日
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