恋人選びの心 2: 性淘汰と人間性の進化

  • 岩波書店 (2002年7月15日発売)
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本棚登録 : 85
感想 : 9

2002年刊。著者はロンドン大学ユニバーシティ・カレッジ経済・社会進化研究C上級研究員。訳者は早大政経学部教授。全二巻中の二。前巻で示した性淘汰仮説の基本三原理をもとに、本書は、男性器・スポーツマン人気、クリトリスを含む女性器・乳房や臀部・ウエスト等への関心、芸術(特に絵画)や握斧等の道具製作、道徳や利他心、また言語に関し性淘汰仮説から進化を遂げてきたとの論を展開。物事への惜しみない努力と関係構築の巧みさが、配偶者の心を惹く。芸術や利他心、言語等が妥当する点だ。一方、感覚バイアスによるのが男性器・女性器。
さらに、健康体という適応度指標たりうる、スポーツマン人気・女性の姿態等、多面的な要因論を展開するのは興味深い。加え、予測不可能な行動形態を、生物が生き延びてきた一つの要因とする観点から、これら予測不可能性を脳に担保させるべく、例えば、ユーモアや創造性が現出した。あるいは、求愛前には男性は女性に言葉巧みに気を惹こうとする半面、子育てに関わらせるべく女性は男性に言葉巧みに気を惹こうとするとの指摘には、結婚後は家庭での会話主導権が女性にあることを、上手に説明している等、様々な人間の有りようが顕出され、面白い。
逆に、利他性の乏しいサイコパス男性が女性に嫌悪されながらも、遺伝的に生き延びたのは、この性癖を隠蔽し男女関係を構築したからだ。この説明は避妊困難な時代相では、割と判りよい説明(サイコパス的女性が成立しにくいのは子育て放棄に繋がりやすく、遺伝的に継承しにくいとのこと)。このように、一見矛盾・対立する要素を含みながら、その中で各要素がせめぎ合いながらも進化していく。この模様は腑に落ちやすく、その中で、芸術や言語が特に指数関数的に発展したのは、性淘汰による強い方向性が推認でき、なかなか気づきの多い書であった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ノンフィクション
感想投稿日 : 2017年1月23日
読了日 : 2017年1月23日
本棚登録日 : 2017年1月23日

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