絵巻物に見る日本庶民生活誌 (中公新書 605)

著者 :
  • 中央公論新社 (1981年3月23日発売)
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感想 : 15

1981年刊。民俗学の大家の遺作、かつ絵巻物から判る民衆の生の姿を多面的に叙述した書。◆多数の絵巻物の細部まで漏らさず、過去の民衆の生活実相を丹念に拾い上げようとし、執念にも似たその描写に感動。多面的であるがゆえに個別の掘り下げは甘いが、逆に言えば、著者の広範な研究活動を伺い知ることができる。◇また、新書であるにもかかわらず、118もの絵が掲載され(白黒でかつ小さいのは残念だが)、解説を加える。怨霊信仰にも触れつつ、各工具や生活雑貨、家、衣服などにも触れられ、基礎的事実を確認するのにうってつけ。
一例として「一般には…火種…は…硫黄の利用が始まるまでは望むべくもない」ため、囲炉裏が重要であったり、香火を火種にすべく寺の周辺に茶店が立ち並んだという事実がある。また「百鬼夜行絵巻」は見て見たい。道具を妖怪化させたのも描いているらしいから。なお、藤原信西は、平治の乱にて、生き埋めにされて自害したが、その後掘り返され斬首されたようだ(H24年大河で描けますか?描いたらすごいが…)。また、大阪夏の陣等で、有名武将の首が実検されなかったのは、部下の介錯後、身元を隠蔽すべく面皮を剥ぎ取ったから、とある。凄まじい
ちなみに、「逆説の…」を書いている著者は、この偉大な先人について、なにかコメントしているのだろうか(確認の意味で再読の要ありだが)。彼の人が出す怨霊信仰は既に本著者を含め、幾人もの先人が十分指摘していたところである。少なくとも発想のインスパイアを受けた人物へのリスペクトは不可欠に思うところ、彼の書籍ではそれは全く感じられないのだが…。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ノンフィクション
感想投稿日 : 2017年1月15日
読了日 : 2017年1月15日
本棚登録日 : 2017年1月15日

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