◆アジア太平洋戦争前夜、戦争を回避すべく、ぎりぎりの日米間交渉の中で提示されたハルノートに隠された一面を開陳する本書。ここから外交でのパーセプション・ギャップの意味を感得できれば、現代の外交を見る眼も変わるに違いない◆
1999年刊。
著者は京都産業大学外国語学部教授。
太平洋戦争直前の日米交渉において画期をもたらしたハル・ノート。これについて、その作成経緯、前史、日米交渉過程での関係者の意図、文言解釈、ソ連諜報員の影響等を論じる書である。
オビは煽り過ぎで、日米交渉の中にソ連が干渉しようとしていた事実は伺えるものの、結論的には大して影響はなかったというものだろう。
むしろ、本書の愁眉は、ハル・ノートの文理解釈(中国に満州は含まれない点)と、未交付に終わった暫定協定案の経緯だろう。
また、著者の言うパーセプションギャップ。これを訳すると、外交当事者間での認識の相違という意なのだろうが、なるほど、この相違は、外交や交渉の実施面での土台と言えるだろう。
仮に日米交渉の失敗例を他山の石と為すならば、この認識の相違に無知であった事実を虚心坦懐に受け止めてからのことになるはずだし、また、およそ交渉事(外交はその典型)では、かかる認識の相違を自覚せねばならないはずだ(でも、果たして今の外交担当や、首脳外交を展開するA首相にこの自覚はある?)。
ところで、ハルやルーズベルトの対日外交に影響を与えたホーンベック元国務省極東部長。彼は、油のない日本海軍など物の数ではないし、弱者は強者に立ち向かわず、経済封鎖をしておけば戦争にはならないという思考の持ち主であったようだ。
これこそ、当時の米国の対日観の一端、その雰囲気を覗かせるエピソードと言えそうである。
- 感想投稿日 : 2017年1月15日
- 読了日 : 2012年5月21日
- 本棚登録日 : 2017年1月15日
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