自爆する若者たち: 人口学が警告する驚愕の未来 (新潮選書)

  • 新潮社 (2008年12月1日発売)
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 「人間が闘争を行うのは「飢餓」からの脱出、物的な充足を求めるためであり、したがってそれらが満たされれば世界には平和が訪れる。」というのがマルサス主義以降一般に信じられている平和論ではなかったろうか。
 しかし著者はそれらを「愛らしくも無邪気な幻想」と斬って捨てる。なぜ人は戦うのか。それ以前に「どういった人間が」戦いに及ぶのか。そういう視点から歴史を見ると意外な構造が見えて来た、本書はその構造を解析したものである。そのキーワードは『ユース・バルジ』バルジとは人口ピラミッドの突出した部分のことをいい、多くの国家が歴史的な戦争/侵略を行った時期はその国の人口構造が10〜20代に極めて突出した時期に合致するというものだ。
 もちろんそれは戦闘要員が多いという単純なモンダイで片付くことではない。突出した多勢の若者たちは自分たちが手にする社会資源が相対的に少ないことを知り、その上で力を「外」に向けるのだ。また国家も戦闘要員を「消費材」と考えた場合、遠慮なくこれを消費しようとする。
 人類は本能的に自分たちの社会に「適当な」人口構成というものを理解しており、いろいろな形での「産児制限」を行ってきた。それらの中には現在の規範ではゆるされざるものもあったが、社会を維持する手段として暗黙のうちに認められていたのである。
 ところが、コロンブス以降、ヨーロッパ人は「人的要因」の増大に迫られた。女は産めるだけの子を「生産」しなくてはいけなくなった。そこで産児制限のプロであった当時の助産師たちは「魔女」とされ社会から抹殺された。と同時に人口ピラミッドは今までにない構造を取るようになる。そしてその若者たちは生まれ育った場所では手に入らないものを求めて「新世界」で略奪の限りを尽くし、その動きは19世紀まで続くのである。
 それらが終演した1940年代以降、女たちは産むのを止めた。おそらく動物的本能として「母性」からくる出産欲というものはひとりかふたりでいいものと見え、19世紀に覇権国家としてならした国々のほとんどが、今や『シニア・バルジ』を抱える状況になっている。
 では今『ユース・バルジ』を抱える国家はどこにそのはけ口を求めるのか?!それが世界各国で見られる局所的なテロの原因だと著者は分析する。彼らは『自分の社会的位置』を求めるため「既存のもの」を壊そうとするのだ。9・11の実行犯たちがいずれも移民したアラブ系の若者であり、つまり物的には決して飢餓の状態にはなかったこと、それが何よりの証拠だろうと著者は示している。
 論調がかなりアグレッシヴで、俄には信じ難い部分もあるけれど、かなり興味を魅かれる内容ではあった。面白さという点ではなかなかのものだと思う。 

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: SOCIAL
感想投稿日 : 2014年8月10日
読了日 : 2011年4月24日
本棚登録日 : 2014年8月10日

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