漂流物 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1999年10月28日発売)
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感想 : 9
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世の中には、「書かずにはいられない」という性分の人がいて「読まずにはいられない」という性分の人がいて、前者の人が小説家になり、後者の人が読書大好き人間になるのでしょうかね?車谷長吉さんは、もう、どないもならんくらいに「書かずにはおられなかった」お人なのでしょうし、僕はどうしても、「読まねばならんかった」人間なのだろうなあ、とか、そんなことを思ったのでした。

それにしても、「私小説」とは、なんじゃろか?と思う次第です。

作者自身が主人公の小説。
作者自身が、自らの実生活の体験をほぼメインに書いた小説。

それが、私小説、というものなのか?めちゃんこザックリ、そう認識しているのですが、むう、そうなると、「私小説」と「コラム」「随筆」とは、違うのか?むう、、、謎だ、、、

この小説に収められた話でいうならば、「めっきり」や「愚か者」内のいつくかの話は、「むむむ、エッセイと、同じではないのか?これは、小説、といっていいのか?」とか、思った次第でした。あと、「木枯らし」や「物騒」は、小説なのか白昼夢なのか、なんだこりゃ?うむむ、、、わからん、、、という感じで、いやあ、表現って、様々なものだなあ、とか、思ったのでした。

で、とにかくスゲエな、こりゃとんでもねえな、と思ったのは「抜髪」ですね。こらもう、凄い。こんなの、初めて読んだ。テンションが凄い。

小説の体裁としては、車谷長吉さんのお母さんが、車谷長吉さんに向かって、幼少期から、成長して、一応の「今」に至るまでの日々の中で、ずっとしゃべり続けた言葉それだけ?で成り立っている、短編というよかは中編?というくらいの作品なのですが、いや、中編ではないか。やっぱ短編、か。

もうね、すっごいの。罵詈雑言の嵐。貶す貶すボロカス言う。実の息子の事を。ホンマ、コテンパン。怖い。めちゃんこ怖い。ここまで言うの。そこまで否定すんの、ってくらい。でもまあ、この、お母さん(的人物?存在?)の言葉が、ものごっつ、むっきだしの真実、と言いますか。一切虚飾の無い、人間存在の本音そのもの、というか、もう、すっごいんです。

ある意味、これは、「名言集」と言ってもいいんではなかろうか?「イチロー選手の名言集」みたいに。「発明王エジソンの名言集」みたいな。「シェイクスピア作品の名言集」みたいな?とにかく、とんでもねえ剥き出しの言葉の、ミもフタもない人間存在の、名言、のようなもの、テンコ盛りです。

で、めちゃくちゃヒドイ事言ってるのに、不思議と、その中にも、なんだか愛がある、ように、感じられてしまうのが、、、不思議。これ不思議。怖い。おっとろしい。でも、なぜか?何故か?優しい。いや、優しい、とか思っちゃう時点で、ダメか?駄目なのか?なんだこの「抜髪」という作品は。とにかく、なんだかもう、物凄い存在感です。あ、「誰かの話し言葉だけで小説が成立する」という事を認識させてもらえたことも、なんというか、ホンマ凄い、ということも、思います。

でもこれ、なんだろう、車谷長吉さんのお母さんが、本当に、こんな風な言葉を車谷長吉さんに浴びせたのかも、しれない。でも、なんというか、車谷長吉さんが、お母さんのフリをして、自分で自分に向かって、戒めの言葉として浴びせている、のかも、しれない。むう、、、どうなんだろうな。そんな気も、してしまうのです。「おい、お前。俺という存在の、お前。ナンボのもんや。自分なんて、ちっぽけなもんやぞ。決して思い上がるなよ。いいか」って、常々、言い聞かせてたんではなかろうかなあ。自分で、自分に向かって。

そう思うと、なんというか、究極の自虐。ドM。マゾの中のマゾ。ということ、なのか?いやあ、なんだか、すごい。もう、それでも、それでも、書かずにはいらならかったんだろうなあ。こんな文章を。そして、こんな作品を生み出した車谷長吉さんを、どうしても、尊敬せずにはいられない。いやもう、ホンマ凄い。読み返すの、かなり、勇気と体力がいるけど。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2017年2月22日
読了日 : 2017年2月22日
本棚登録日 : 2017年2月22日

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