定本 想像の共同体―ナショナリズムの起源と流行 (社会科学の冒険 2-4)

  • 書籍工房早山 (2007年7月31日発売)
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【主題・問題意識】p22
ナショナリティ、ナショナリズムとった人造物は、個々別々の歴史的書力が複雑に「交叉」するなかで、18世紀末にいたっておのずと蒸留されて創り出され、しかし、ひとたび創り出されると、「モジュール」となって、多かれ少なかれ自覚的に、きわめて多様な社会的土壌に移植できるようになり、こうして、これまたきわめて多様な、政治的、イデオロギー的パターンと合体し、またこれに合体されていったのだと。そしてまた、この文化的人造物が、これほどまでにも深い愛着(アタッチメント)を人々に引き起こしてきたのはなぜか、これが以下においてわたしの論じたいと思うことである。

【国民の定義】p24
国民とはイメージとして心に描かれた想像の政治共同体であるーそしてそれは、本来的に限定され、かつ主権的なもの[最高の意思決定主体]として想像されると。

【国民それ自体は、常に、はるかなる過去よりおぼろげな姿を現し、そしてもっと重要なことに、無限の未来へと漂流していく。偶然を宿命に転じること、これがナショナリズムの魔術である】p34
ドブレ「しかり、わたしがフランス人に生まれたのはまったくの偶然である。されどフランスは不滅である」

【ナショナリズムは先行する大規模な文化システムと比較して理解されなければならない】p35
Cf. 宗教共同体と王国

【18世紀ヨーロッパにはじめて開花した二つの想像の様式】p50
小説と新聞
⇒国民という想像の共同体の性質を「表示」する技術的手段を提供した。
→虚構は静かに、また絶えず、現実に滲み出し、近代国民の品質証明、匿名の共同体へのあのすばらしい確信を創り出しているのである。p62

【近代共同体の特徴】p76
水平・世俗的、時間・横断的

ルターは名の通った最初のベストセラー作家となった。p79

【プロテスタンティズムと資本主義の親和性】 p79-80
プロテスタンティズムと出版資本主義の連合は、廉価普及版の開拓により、ふつうラテン語をほとんど知らなかった商人、女性をふくめ、大規模な新しい読者公衆を急速に創出し、かれらを政治宗教目的に動員した。

【新しい想像の国民共同体を積極的に促進したもの】p82
生産システムと生産関係(資本主義)、コミュニケーション技術(印刷・出版)、そして人間の言語的多様性という宿命性のあいだの、なかば偶然の、しかし、爆発的な相互作用であった。
人間の言語的多様性の宿命性、ここに資本主義と印刷技術が収斂することにより、新しい形の想像の共同体の可能性が創出された。
これが基本的形態において、近代国民登場の舞台を準備した。p86

ネアン「明瞭に近代的な意味でのナショナリズムの到来は、下級階級の政治的洗礼と結びついていた。... たとえときに、民主主義に敵対的になることがあったにせよ、国民主義運動は、その見解においてきまって人民主権的(ポピュリスト)であり、下級階級を政治生活に導入しようと試みた。最も典型的な場合には、それは、中産階級と知識人のおちつきのない指導の下に、民衆の階級的エネルギーを新国家支持へと動員し誘導するという形態をとった」p92-93

【クレオール】p104
かれらは、武器、病気、キリスト教、ヨーロッパ文化に対し、本国人とまったく同じ関係をもっていた。別の言い方をすれば、かれらは、原理的に、自己の権利を主張しうる政治的、文化的、軍事的手段をもっていた。かれらは植民地の共同体を構成し、同時に上流階級でもあった。かれらは経済的に支配され搾取さるべき存在出会ったが、同時に帝国の安定に不可欠の存在でもあった。こうしてみると、クレオール有力者と封建貴族の地位がよく似たものであったことが見てとれよう。

アメリカ合衆国においてすら、ナショナリズムの情緒的絆はかなり伸縮自在であり、西部のフロンティアの急速な拡大と南北経済の矛盾によって、独立宣言から一世紀もあとになって分離戦争が起こったほどであった。p110

【クレオール国家がいかに国民意識を培ったか】p111
経済的利害も自由主義も啓蒙主義も、それ自体としては、旧体制の強奪から守るべき想像の共同体の種類または形態を創造することはできなかったし、創造しなかった。
⇒アメリカ大陸の「クレオール・ナショナリズム」と「新しいナショナリズム」は峻別されるべき

世界史的観点からすれば、ブルジョワジーは、本質的に想像を基礎として連帯を達成した最初の階級であった。p132

人は誰とでも寝ることができるけれども、ある人々の言葉しか読むことは出来ないのである。p132

【ex. フランス革命】p136
それを行った人々とその犠牲者となった人々の経験した圧倒的でつかまえどころのない事件の連鎖は、ひとつの「こと」となり、フランス革命というそれ自体の名称を得た。数限りない水滴によって形状定まらぬ巨石が丸石となるように、経験は数百万の印刷された言葉によって、印刷ページの上でひとつの「概念」へと整形され、そしてやがてはひとつのモデルとなった。
概念→モデル→ブループリント ex. 南北戦争

【想像の現実(imagined realities)】p136
国民国家、共和制、公民権、人民主権、国旗、国家その他。(対立概念⇔)王朝帝国、君主制、絶対主義、臣民身分、世襲貴族、農奴制、ユダヤ人街その他ーの清算。

【公定ナショナリズム】p147
中世以来集積されてきた広大な多言語領土において、帰化と王朝権力の維持とを組み合わせる方策、別の言い方をすれば、国民(ネーション)のぴっちりとしひきしまった皮膚を引きのばして帝国(エンパイア)の巨大な身体を覆ってしまおうとする策略である。
ex. 帝政ロシア
「国民と王朝帝国の意図的合同」p148
スロヴァキア人はマジャール化され、インド人はイギリス化され、朝鮮人は日本化されることになった。p175

公定ナショナリズムは、共同体が国民的に想像されるようになるにしたがって、その周辺においやられるか、そこから排除されるかの脅威に直面した支配集団が、予防措置として採用する戦略なのだ。p165

【旅ー三つの要因】p190-191
①19世紀における鉄道と蒸気船、今世紀における自動車と航空機ーによって物理的移動がけたはずれに増加した
②帝国的「ロシア化」のもっていた実践的、イデオロギー的側面。地球全体にまたがるヨーロッパ植民地帝国の規模とその支配下におかれた巨大な人口、このことは、純粋に本国人だけの、あるいはせいぜいクレオールをふくめただけの官僚機構では、これを充員することも、財政的に維持することも不可能だということを意味した。植民地国家と、そしてのちには法人資本は、事務員の大部隊を必要とし、これら事務員は、二つの言語ができて、本国の国民と植民地住民を言語的に媒介できなければ役に立たなかった。こうした必要は、20世紀にはいって国家の機能的専門化がどこまでも進行するにつれ、ますます増大していった。従来からの内務官僚とならんで、医務官、灌漑技術者、農業指導員、学校教師、警察官その他が登場した。そして、そうした国家の拡大とともに、その内部では巡礼者のむれが膨張していった。
③植民地国家、さらには民間の宗教、世俗団体による近代的教育の普及。

【三つのナショナリズム・モデルのモジュール性(汎用性)】p212
①国民主義指導者は、公定ナショナリズムをモデルとして文武の教育システムを
②19世紀ヨーロッパの民衆ナショナリズムをモデルとして選挙、政党組織、文化的祝典を
③南北アメリカによってこの世にもたらされた市民の共和国の理念を意識的に展開できる
⇒なによりも、「国民」という観念それ自体が、いまでは、事実上すべての出版語のなかにしっかりと巣ごもっており、国民という観念は政治意識と分かち難く結びついてしまっている。

【まとめ】p217
主としてアジア、アフリカの植民地に打ちよせたナショナリズムの「最後の波」は、産業資本主義の偉業によってはじめて可能となった新しい型の地球的帝国主義への反応として発生したものであった。
資本主義はまた、印刷出版の普及その他によって、ヨーロッパにおいては俗語にもとづく民衆的ナショナリズムの創造を助け、そしてこうした民衆的ナショナリズムは、その程度はさまざまであれ、伝来の王朝原理を掘り崩し、可能なかぎり王朝を国民へと帰化するよう駆りたててもいった。ついで公定ナショナリズムは、便宜上「ロシア化」とも呼びうるものを、ヨーロッパ外の植民地にもたらした。中央集権化され標準化された学校制度はまったく新しい巡礼の旅を創出し、この巡礼のローマとなったのは、典型的には、各植民地の首都であった。ある特定の教育的巡礼と行政的巡礼の組み合わせ、これが新しい「想像の共同体」に領土的基盤を提供し、そしてこの想像の共同体のなかで「土民(ネイティブズ)」は自分たちを「同国人(ナショナルズ)」と見なすことができるようなった。p218
クレオール・ナショナリズム、俗語ナショナリズム、公定ナショナリズムは、さまざまの組み合わせで複写(コピー)され、翻案され、改良をくわえられた。そして最後に、資本主義が、物理的、知的コミュニケーションの手段を加速度的に変えていくにつれ、インテリゲンチアは、想像の共同体を宣布するにあたり、文盲の大衆に対してばかりでなく、異なる言語を読む識字者大衆に対してすら、出版を迂回する方法を見出すようになったのである。p219

植民地的人種主義は、王朝的正統性と国民的共同体とを溶接しようと試みる「帝国」概念のはらむ主要な要素だった。p245

ルナン「国民とは多くのことをすっかり忘れていることだ」p264

(人口調査、地図、博物館)これらの制度が一緒になって、植民地国家がその支配領域を想像するその仕方ーその支配下にある人間たちがだれであるかという性格付け、その領域の地理、その系譜の正統性ーを根底的にかたち作った。p274-275

地図(マッピング)の言説はひとつのパラダイムであり、このパラダイムのなかで行政が実施され軍事行動がとられ、またそれがパラダイムに役立つことにもなった。P288

人口調査、地図、博物館は、相互に連関することにより、後期植民地国家がその領域について考える、その考え方を照らし出す。この考え方の縦糸をなしているのは、すべてをトータルに捉え分類する格子(グリッド)であり、これは果てしない融通さをもって、国家が現に支配しているか、支配することを考えているものすべて、つまり、住民、地域、宗教、言語、産物、遺跡、等などに適用できる。そしてこの格子の効果はいつでも、いかなるものについても、これはこうであって、あれではない、これはここに属するものであって、おそこに属するものではない、と言えることにある。p299

【ロゴ】p301
ロゴは、それが空っぽであること、なんの文脈(コンテクスト)もないこと、視覚的に記憶されること、あらゆる方向に無限に複製可能であることによって、人口調査と地図、縦糸と横糸を消しようもなく交わらせたのである。

国民の伝記は、模範的な自殺、感動的な殉国死、暗殺、処刑、戦争を奪い取ってくる。p335
⇒物語の目的を果すためには、これらの暴力的な死は「われわれのもの」として記憶/ 忘却されなければならない。

悪名高い「アジア的価値」のような、うその「文化・地域的」決まり文句 p374

<解説・あとがき>

【想像の共同体の鍵】p381
「想像の共同体」が人々の心にいかにして生まれまた世界に普及するに至ったのか、その世界史的過程を
「聖なる共同体」と「王朝」、「メシア的時間」と「空虚で均質な時間」、新しい「巡礼」の旅、「言語学・辞書編纂革命」、「海賊版の作成」で解明する

【メモ】
モジュール:規格化され独自の機能をもつ交換可能な構成要素
メシア的時間:即時的現在における過去と未来の同時性に相当する時間概念 p49

国民性(ネーションネス、nationness)
並存感(センス・オブ・パラレリズム、sense of pararelism)p321

格子の力(グリッド・パワー):比喩的に一定の社会範疇によって構成される振り分けシステム、分類メカニズムを格子、グリッドと言う。p279注

憲法 cf. 『憲法で読むアメリカ史』『アメリカのデモクラシー』

「自明の運命」(manifest destiny)p349

アジア的価値

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 歴史学/人類学/CS
感想投稿日 : 2012年11月12日
読了日 : 2012年11月19日
本棚登録日 : 2012年11月12日

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