ぼくのプレミア・ライフ (新潮文庫 ホ 15-2)

  • 新潮社 (2000年2月1日発売)
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感想 : 27
5

とんでもなく面白い本だった。
題名の「プレミア・ライフ」の「プレミア」はイングランドのプロフットボール(サッカー)リーグである「プレミアリーグ」のことだ。熱狂的なアーセナルサポーターである筆者が、11歳の時、1968年に初めてハイバリーのスタジアム(アーセナルのホームグラウンド、今は移転している)でアーセナルの試合を観戦し、「フットボールと恋に落ちて」しまって以降、1992年1月までの、足掛け24年に渡る「アーセナル・フットボール・エッセイ」とでも言うべき本である。
短期間であるが通っていたイギリスシェフィールドの大学での、私の英語の個人レッスンの先生は大のサッカー好きで、地元シェフィールドユナイテッドのサポーターだった。私もサッカーバカであったので、レッスンの中でよくサッカーの話をしたものである。シェフィールドユナイテッドは、現在はプレミアに所属しているが当時はその下のリーグに所属し、プレミアへの昇格争いをしていた。かなり良い線にいたのであるが、順位は一進一退。ある日のレッスンで、それを私がからかうと彼は「だいたいイングランドでは、フットボールという言葉を使い、サッカーという言葉は使わない。サッカーという言葉を使うお前はアメリカ人みたいだ。お前はイングランドに来ずにアメリカで勉強すべきであった」と訳の分からない怒り方をし始めた。理不尽ではあるが、一応先生なので融和策をとらざるを得ず、私はその場でシェフィールドユナイテッドのサポーターになることを誓わされてしまった。以降、私はユナイテッドのホームスタジアムのブラモールレインに通うことになった。
観戦初戦は敗戦、観戦2戦目も敗戦。このあたりで、また彼と衝突してしまった。「お前がスタジアムに来た試合は全部ユナイテッドは負けている。お前はもうスタジアムに来るな」というのが彼の言い分。確かに、その年のユナイテッドは24チーム中の7位とか8位くらいにつけていて、そんなに弱いチームではなかったわけで、そんなチームがホームで連敗するのは、あまりありそうなことではなかったのは確かである。が、私もその時には、すっかりイングランドの「フットボール」のとりこになり、「自分のチーム」であるシェフィールドユナイテッドを応援することに、はまってしまっていたので、観戦をやめるわけにはいかなかった。しかし、その次に観戦した試合はなんとか引き分けたものの、4試合目の観戦試合は、またも負け。彼とはすっかり険悪な関係になってしまった。ことほどさように、フットボールファンは、フットボールに関しては、(私も含めて)本来的には心が狭い。
この本も、筆者の狭量さが本当に面白い。筆者にガールフレンドが出来、その彼女が幸運にもアーセナルの大ファンとなってくれた。幸運を喜ぶ筆者であったが、ある日、彼女と、将来2人の間に子供が出来た時にどうするか、という話題になったとき自分の間違いに気がつく。子供がグラウンドに来れるようになるまで、1人は観戦、1人は家で子守を「交代で」担当することを彼女から提案された筆者は、アーセナルファンを妻に持つことの間違いに気がつく。なんとかしないといけないと悟った筆者は、ある日、アーセナルが負けた後、思いっきり機嫌を悪くするのである。最初は同調していた彼女であるが、あまりの機嫌の悪さに、つい「たかだかフットボールのことじゃない」という態度を彼に示してしまう。これを待っていた彼は「君には分からないんだよ!」と勝ち誇りながら叫び、「一家における最大のアーセナル狂」という位置づけを獲得してしまう。実に共感できる話だ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2007年4月30日
読了日 : 2007年4月30日
本棚登録日 : 2007年4月30日

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