銀行からお金を借りて、億円相当のストラディバリウスを買ったという話である。千住真理子の訓練の様子や、兄弟の人となりを知ることができる。ヴァイオリンが手に入るまでの不思議な因縁はそれ自体、とても興味深いが、文章はどうにも感情過多で、もっと抑えて書いてくれないかと辟易する。娘が12歳でプロデビューし、世の中の無理解や、嫉妬やひがみにあってきたそうだが、楽しいこともあったんじゃないでしょうか。少し悲劇的に書きすぎな気がする。ある程度、心に余裕がある人じゃないと、こういう本は読むにたえません。おそらく、いらない嫉妬心がわき上がってくるでしょう。家族の愛情の面でも、音楽的才能でも、お金でも、スタートラインが、もっと後ろにある人は確実にいるのだし、本としてはそういう人への配慮がないと感じます。ストラディバリウスを手に入れるときの家族の感情の起伏や苦労話のエピソードが、さりげない「悲壮感」とあいまって、そこはなかとないイヤミを感じてしまいます。もっと、人が知るたがるような「デュランディ」の蘊蓄を調べて書いてくれたら、読みものとして成功したんじゃないでしょうか。そもそも、ストラディバリがなんでこの楽器を教皇に献呈したのかもよく分からんし、持ち主の側近とか、貴族とか、大富豪のこともさっぱり分かりません。自分たちの楽器なんだから、もっと関係者に取材したり、史料を集めて、突っ込んで調べてみたら?と思います。科学者の父母と芸術家の子供という家族も実業の欠如という点では多様性がなく、教育の話としても特殊すぎます。まあ、こういう家族がいてもいいとは思います。
- 感想投稿日 : 2009年2月26日
- 読了日 : 2009年2月26日
- 本棚登録日 : 2009年2月26日
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