少年少女のための文学全集があったころ

著者 :
  • 人文書院 (2016年7月26日発売)
4.09
  • (8)
  • (9)
  • (4)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 108
感想 : 15

2016.10.15市立図書館
個人的な読書体験を綴った作品で、登場するのは主に翻訳少年少女文学。登場する本に知っているタイトルが多い人なら、なつかしく思い出したり共感したり(ときには「そんなこと書いてあったっけ!?」と意外な読み方や記憶におどろかされたり)しながら読めるし、あまり読んだことのないタイトルばかりという人でも、こんな楽しそうな世界が…と発見が多そう(私の場合は前者)。いずれにしても読後は芋づる式に児童文学を読み返したくなるのがやや危険な一冊。

瀬田貞二さんといえば「がらがらどん」などの名訳で名高いけど、ああ、「朝びらき丸」ってほんとうに素敵な翻訳だったなぁ!と改めて。

Ⅰ 食いしん坊の昼下がり
キャンブリック茶、甘茶、ケンブリック茶、ケインブリックティー(薄紅茶)…訳語と状況から想像する味は? こういうのは同じ本の別の翻訳やシリーズ物、あるいは同じ訳者の仕事をあるていどの量よみこんでいないとなかなか気づかないから、そんな楽しみをみつけた筆者がちょっと羨ましくなる。
Ⅱ 記憶のかけら
「面倒見がよくて気配りできるために早くおとなになってしまう」「しっかり者の長女タイプ」のスーザンが、ナルニアシリーズでは早々と冒険から抜けてしまうというエピソードに、早々と大人向けの文庫本を読みはじめ、岩波少年文庫や福音館文庫の世界にそれほど浸りきる暇もなく大人の文学の世界にいってしまったわが長女のことを思い出さずにはいられなかった。
Ⅲ 読むという快楽
天正少年使節の話がなつかしかった。そして、同じ思考経路で入手していまだ積読になっている若桑みどり『クアトロ・ラガッツィ』を今度こそ読み始めようと決意を新たに、さらにその後に芋づる式に読むべき本も(巻末にリストがあって大助かり)。アンやジョーの文学少女ぶりも大人になって改めて読み直すとおもしろいかもしれない。
Ⅳ 偏愛翻訳考
新訳や訳語、訳文の時代性、完訳と抄訳、校正などの話は大好物。どれもうなずいてしまう。
Ⅴ 読めば読むほど
本の所有、絶版本、造本、そして世界文学全集との出会い。
私自身、母親の実家から一冊ずつ持ち帰っては読みふけった講談社の少年少女世界文学全集(+伝記全集&平凡社絵本百科)がいまの教養のベースとなっているので、全集を片っ端から読むような読書体験はバカにできないと肌で思う。いまは散逸してしまったあの文学全集をもういちど手元において読み返せればと切望するし、今のこどものためにも宝の地図のような文学全集が企画されてほしいと熱望する。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: エッセイ
感想投稿日 : 2016年10月15日
読了日 : 2016年10月29日
本棚登録日 : 2016年10月15日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする